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「ジョージは、ずっとホグワーツにいたんだっけ」
「うん。クリスマス・パーティも学校のに出た。はルーマニアへ行ったんだろ? どうだった?」


そう訊かれて、どう答えればいいんだろうなあ、なんてちょっとだけ考えてみる。単純に、おじいちゃんとジョージの家族について言おうかなあと思ったけれど、夕飯まで時間があるし、少し長く話したいなあ、なんて思った。
二つ並んだ切り株に座って、口を開く。


「えっと、ちょっと長くなってもいい? 少し珍しい体験をしたから、聴いてほしいなって思って」
「ん、いいよ。僕もの話、聴きたいから」


こちらを向いてそう言うジョージを見て、口を開く。
驚いてくれるかな。笑ってくれるかな。少しでも退屈しないようにお話しできたらいいな。自分は会話があまり上手ではないと知っているけど、どうにか楽しんでもらえるようにと、考えながら話す。


「じゃあ、ルーマニアに着いたところから話すね。――そこで、ジョージのお兄さんのチャーリーさんに出会って」


話している間、やはりジョージは聞き上手で、私まで楽しくなってしまった。
質問とか、感想とか、そういうのがいちいち面白くて、反応も大げさで、途中で笑いが止まらなくなって話が中断してしまうほどだ。


のおじいさんって、アー、大胆というか、なんというか」
「いいよ。本音を言っちゃって。昔からそうなんだよね。自分より大きい動物と対峙することはもう慣れっこになっちゃって。たぶん、今トロールと会ってもそんなに怖くないかも」


笑いながら言うと、ジョージは意外そうに目を見開いた。
飛行術が苦手だって話したときは全然意外だと思ってなかったみたいだし、体を動かすこと全般が苦手だと思われていたんだろう。


「へえ。なんか意外だな。ってもっと怖がりだと思ってた」
「魔法生物に関してだけは多分、他の人よりも強いと思うよ」
「そうだよな。その分空を飛ぶことに関しては他の人よりずっと怖がりだし」
「う…。それは、言わないで…。自分でもちょっとどうにかしたいんだから」
「チャーリーに抱きつくくらい苦手なんだもんな」


少しとげのあるような言葉で、別のところを見ながらジョージは言った。
なんだかその様子がいつもと違って、私なにか変なこと言っちゃったかなあと思いながら、首を傾げる。


「ジョージ?」
「ん…、ああ、いや、なんでもない」
「…? それならいいけど…」


疑問は消えないまま、その会話は流した。
チャーリーさんのことがあんまり好きじゃないのかなあなんて一瞬思ったけど、他の会話でそんなことを感じたことはない。だからまたなにか別の原因があるんだろうな。


「でも、本当に無事でよかった。になにかあったら、僕は正気で居られないと思う」
「あ、でも、小さい頃からいろいろと身を守るための訓練は受けてるし、確かめはしなかったけど、おじいちゃんのことだからきっと誰か見張りを付けていたと思うの。だから、多分そんなには危険じゃなかったんだと」
「そんなの関係ないよ。…僕だったら、絶対にをドラゴンの住処なんかに一人で放り出さない」


それを言った時のジョージの目が凄く、真摯で。まっすぐにこちらを見ていて。なんて返したらいいのか、わからなくなった。


「…クリスマスプレゼント、なんだけどさ」
「! あ、うん」
「いろいろ考えたんだけど、何が欲しいのかなかなか思いつかなくって」


ジョージは、持っていた紙袋をごそごそと探った。
取り出したのは、手持ち花火が数本とマッチだ。もしかして花火するのかなあ、それはそれですっごく楽しそうだなあ、なんて思った。


「本当は夜の方がいいんだけど、目立っちゃうし、僕はいいけどを捕まらせるわけにはいかないからさ。ちょっと観てて」


湖の方へ花火を向け、マッチを擦って、導火線に火をつける。
すると、花火はキラキラ輝く粉を振りまきながら湖の上を踊るように飛んで行った。湖の氷で反射し、さらに輝きを増す。
思わず立ち上がって、湖の方を見た。
輝く星が湖に降り注いでいるような――、そんな幻想的な風景に、思わず目が釘付けになった。
丁度夕日が沈みかけていたので、赤い夕日から夕闇の紺色まで、少しずつ色を変えていくのが、美しかった。
心配そうにこちらを窺うジョージにも気づかないほど、花火が燃え尽きるまで一瞬たりとも目を離せなかった。


「―――ええと、


余韻に浸ってぼうっとしていたところで、隣から遠慮がちに声をかけられた。


「どう、だった?」



(不安げにこちらを窺うジョージをゆっくり見上げて口を開いた)


2012.7.15 三笠