新学期が始まると、クィディッチの練習ばかり忙しくなった。 どんなに雨が降っても練習はなくならず、びしょぬれで箒に乗ることは珍しくなかった。 確かに、今回のハッフルパフ戦で勝てば七年ぶりに寮対抗杯をスリザリンから取り返せると考えれば熱がこもるのはわかる。 でも、ここまでくると、ウッドは狂ってるだろうと言いたくもなるし、実際何度もフレッドと言いあった。まあ、だからといって練習を休むわけでもなく、時折練習中にフレッドとばかなことをして憂さを晴らしていた。具体的には、互いに急降下爆撃をしかけて、箒から落ちるふりをしたり、といったところだ。 それを見て、もともと余裕のなかったウッドは、ついに腹を立てて声を荒げた。 「ふざけるのはやめろ!そんなことをすると、今度の試合には負けるぞ。次の試合の審判はスネイプだ。すきあらばグリフィンドールから減点しようと狙ってくるぞ」 その言葉を聞いて、思わず箒から本当に落ちてしまった。泥の中に思い切り顔を突っ込んだが、すぐに顔を上げて、声を出す。 「スネイプが審判をやるって?」 思わずあの根暗な顔が脳裏に浮かぶ。うげえ、と口の中に入った泥の味だけでなく、想像だけで気持ちが悪くなった。 「スネイプがクィディッチの審判をやったことあるか? 僕たちがスリザリンに勝つかもしれないとなったら、きっとフェアでなくなるぜ」 他のチームメイトも着地して、文句を言い始めた。 もちろんみんな、ここで誰に文句を言ったとしても、なんの解決にもならないことは知っている。でも、言わずにはいられない。 だって、あのスネイプは、この学校の先生の中で一番のグリフィンドール嫌いでスリザリン贔屓なんだから。 「僕のせいじゃない。僕たちは、つけ込む口実を与えないよう、絶対にフェアプレイをしなければ」 そのあとは、ふざけることもなく練習に打ち込んだ。 元々雨の所為で暗かった空がさらに暗くなって、どろどろのユニフォームがさらにどろどろになった頃、ようやくウッドが終わりの合図を出した。 ********* 「どう?足は動く?」 「あ、ウン…ありがとう、えーと」 「よ。・」 談話室の中でも一番入口に近い椅子で、友達のペットの猫の様子を見ていた。 最近元気がないんだよね、なんて言うから診てみたけれど、太って怠惰になってるだけだった。 脂肪のたくさん付いた身体にマッサージをすると、気持良さそうに伸びをして寝てしまう。ああもう、これじゃ太る一方だよ。 そう思っていたら、談話室にどさりと何かが倒れる音が聞こえた。 それは、ネビル・ロングボトムだった。両足がピッタリくっついたままで、「足縛りの呪い」をかけられたことがわかる。みんなは笑い転げていたが、すぐに杖を持って、解除の呪文を唱えた。 「、ありがとう」 「どういたしまして。でも、これ誰にやられたの?」 「マルフォイだよ」 手を差し出して立たせてから、椅子へ座らせる。 ポッターとロン、ハーマイオニーも近づいてきた。 先ほどまでマッサージしていた猫はそのまま椅子の上で眠っていたから、ロングボトムの横の椅子に猫を抱いたまま座った。 「図書館の外で出会ったの。だれかに呪文を試してみたかったって」 「マクゴナガル先生のところに行きなさいよ!マルフォイがやったって報告するのよ!」 「これ以上面倒はいやだ」 「ネビル、マルフォイに立ち向かわなきゃだめだよ」 4人の会話を聞きながら、猫のマッサージを続ける。 マルフォイって、ドラコ・マルフォイだよね。珍しい苗字だし、あの純血主義者ならやりそうだ、と納得した。 「あいつは平気でみんなをバカにしてる。だからといって屈伏してヤツをつけ上がらせていいってもんじゃない」 「僕が勇気がなくてグリフィンドールにふさわしくないなんて、言わなくってもわかってるよ。マルフォイがさっきそう言ったから」 「少なくとも、そのマルフォイよりはずっと勇気があると思うけど」 ごろごろと猫は喉を鳴らして伸びをした。ロングボトムはこちらを見ていた。 ハリーたちもこちらを見ていた。なんかちょっと恥ずかしいなあって思いながら、口を開く。 「本当に勇気がなければ、その場で蹲って誰か助けが来るのを待つよ。でも、図書館からここまで自力で来たんでしょ。誰にも頼らずに自分の中で解決しようって思ったんでしょ。それは勇気の一歩目だよ。次の一歩はハーマイオニーたちみたいに立ち向かうことだけど、それはゆっくりでいいと思う。自分のペースで進めばいいよ」 そう言って笑うと、ロングボトムはぽっと顔を赤く染めた。照れているんだろうか。 その隣でポッターがポケットの中から蛙チョコを取り出し、ネビルに差し出した。 「うん、の言う通りだよ。たとえマルフォイが十人束になったって君には及ばない。組分け帽子に選ばれて君はグリフィンドールに入ったんだろう?マルフォイはどうだい?腐れスリザリンに入れられたよ」 蛙チョコを受け取ったネビルは、包み紙を開けながら、かすかにほほえんだ。 「みんな、ありがとう…僕、もう寝るよ…カードあげる。集めてるんだろう?」 カードを受け渡し下あと、おやすみ、とみんなが声をかけて、少しだけ元気になったロングボトムは男子寮へと歩いて行った。 ハリーは、受け取った有名魔法使いカードを眺める。 「またダンブルドアだ。僕が初めて見たカード…」 そう呟いてすぐに息をのみ、食い入るようにそのカードを見つめていたが、すぐにロンとハーマイオニーの顔を見た。 「見つけたぞ!」 興奮したように、少し声高にそんなことを言ったのが聞こえた。聞かれたくない話なのか、私から離れて談話室の隅でこそこそと話し始めた。 なんだか気になるなあと思うけど、聴かれたくないなら聴かない方がいいかなあなんて思う。 年上のおせっかいなんてハリーたちは嫌がるだろうと分かるし、ここにはダンブルドア先生やマクゴナガル先生がいるんだから、大事にはならないだろう。 私は猫を抱いてその飼い主の元へ戻った。 2012.7.17 三笠 |