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素晴らしい試合を見た興奮が冷めぬまま、夕食の席はいつもの数倍騒がしかった。
アリスとともに、席に着くと、着替えて来たために遅れたのか、ジョージとフレッドくんが隣に座った。


「やあ」
「えっ、じょ、ジョージ?」
「ここ空いてる?」
「う、うん。空いてるよ」


ジョージとフレッドくんが来たことが分かると、何人ものグリフィンドール生がこちらを向いて先ほどの試合について一言二言話したがった。
それにおもしろおかしく二人は受け答えるのを眺めていたけど、少しの隙を見て私も話しかける。


「あの、おめでとう」
「ん、ああ。ありがとう」
「――って言っても、今回の主役はハリーだけどな。俺らが何かするよりよっぽど早くスニッチを捕まえちまった!」
「ああ、こんな早く捕まえた奴なんて初めてだろうな」


ポッターの話題でひとしきり盛り上がって、そう言えばまだポッターは来てないなあってことに気がついた。
もう夕飯は始まってしまう。先生方や生徒たちでいっぱいになった大広間で、料理が次々に現れた。
今日はみんなたくさん騒いでお腹もすいていたのだろう、勢いよく夕飯を口に運んだ。


「スネイプ先生がいないわね」
「え? あ、本当だ。それにクィレル先生もいないみたい」
「スネイプは機嫌悪いだろうからな。クィレルに突っかかってるんじゃないか」


あの二人は仲が悪そうだからなあ、と呟いた。
クィレル先生は闇の魔術に対する防衛術の先生で、スネイプ先生はその授業を教えたがっていた。だからと言ってなにか具体的に行動を起こすとは思えないけれど、少し気になる。


「スネイプ先生はそこまで大人げなくないんじゃないかな」
「ぶっ…、おいおい、それはスネイプを高く評価しすぎじゃないか?グリフィンドールへの仕打ちを見てみろよ。今日だって何回不条理なペナルティをくらったか」


確かに今日の試合では理不尽なこと多かったなあと思って苦笑する。
でも、先生同士で揉め事を起こすような人じゃないと思う。
そう思っているのはきっと私だけだろうけど。


「ダンブルドア先生がいなかったら、もっと理不尽だったのかな」
「ああ…、そう考えると恐ろしいな。次はフーチ先生であることを願うよ」


大きなキドニーパイを口に運びながら、いろんなことを考えた。
どうしていきなりスネイプ先生が審判をやったんだろう、どうして今クィレル先生とともにいないんだろう。
前回の試合のときとなにか繋がりそうで繋がらなくて、材料が足りないなあって思った。

考えてるうちに、すっかり食べて空になったお皿が消えて、次にデザートが現れた。
甘ったるい糖蜜パイにアイスを乗せて、さらにフルーツもたっぷりよそった。
あとプディングも少し欲しいなあと思ったけれど、食べられるかわかんないので後回し。
一口サイズに切り分けて、口に運んだ。


「んー、おいし」
「…、それ全部一人で食べるつもりかい?」
「え? うん」


驚いたように目を見開く二人を見て、私は首を傾げる。
フルーツを2つフォークで刺して口に運ぶ。


「甘いものは別腹なの」


えへへ、なんてしまりのない顔でまた一口糖蜜パイを口に運ぶ。
溶け始めたアイスがパイに染みて生地が柔らかく、そしてさらに甘くなっていた。思わず頬に手をあてて、ゆっくりと味わう。
はあ、しあわせだなあ。そう呟いたときに、隣のジョージがぼうっとこちらを見ていたことに気がつくことはなかった。



2012.7.20 三笠