「糖蜜パイになりたいなんて思ってないよな?兄弟」 にやにやと笑みを浮かべたフレッドが耳元で囁いた。 その言葉にハッとして、ようやく自分がに見とれていたことに気がついた。(気づいた今だって、これから何時間でも眺めていたいと思うくらいかわいい) 幸せそうに糖蜜パイをかじるその顔から目を離し、フレッドのほうに視線を向ける。(とうの昔に見飽きた顔がそこにあった) 「なにも考えてなかった」 「相変わらずなことで。もう半年か。お前のその病気はいつになったら治るのやら」 「そろそろお前の好奇心も冷めるころじゃないかと期待してるんだけどな」 自分の皿に乗ったアップルパイを一口かじる。 もう3年も通っていれば慣れた味(美味しいことは認めるけど)なのに、ここまで喜べるのかともう一度ちらりとを見た。 「夕飯食い終わったら談話室で大騒ぎだろうな」 「ああ、また厨房に行って食い物もらってこようぜ」 きっと今頃大忙しで洗い物をしているであろう屋敷しもべ妖精たちを思い浮かべる。 厨房への道はあまり知られていないが、行くと喜んでいろんなものを差し出してくれる。 もしかしては行きたがるかな―――。そう思うけど、今彼女を誘う勇気はない。 「あ、ねえ、ジョージ」 フレッドと話していたところで、すぐ右隣からが話しかけた。 思わず口の中のパイを吹き出しそうになったけど、ぐっとこらえて、急いで飲み込む。 振り返ると、はこちらを見てくすりと笑った。 「口のとこ、パイのカスがついてるよ」 「えっ、あ、ああ、ありがとう」 「どういたしまして。それで、ちょっと訊きたいんだけど」 不意にの顔から笑みが消えて、少し声をひそめるようにして口を開いた。 「今回の審判がスネイプ先生だったのは何でか知ってる?」 「あ、いや――。なにも」 「じゃあ、前回の試合でポッターの箒がおかしくなったのは、よくあること?」 「いや。練習のときは一度もなかったよ」 そう、とはうなずいて、少し考えるような仕草をしていた。 一体なにを考えているんだろう。クィディッチのことじゃない、なにかもっと大きなことだ。もしかして、前にハリーの箒がおかしくなったのは誰かの呪いだったのか。そして今回スネイプが審判をしたのは、より近くでハリーになにかをするためか、もしくはその呪いからハリーを守るため…、いや、後者はないな。あるとしたら、ハリーを呪うためだろう。 「ありがとう。ちょっと気になってるの。ホグワーツって、おかしなことばかりだけど、ポッターの周りは特におかしなことばかりだから」 「別に構わないど、あまり危険なことに首を突っ込まない方がいいよ。その、アー、心配、だからさ」 ぼそぼそと付け加えた言葉が聞こえたんだろう。は一瞬でぼっと顔を赤くして、同じようにぼそぼそとお礼を言った。 の向こうで、その友達がくすりと笑うのが見えた。 きっと、フレッドも同じようににやにやと笑っているだろう。 (誰に笑われたっていいや。目の前で真っ赤になってどぎまぎしてる彼女のことを特等席で見られるなら、そのくらいの価値はある) 2012.7.21 三笠 |