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「あの――、ハグリッドさん? お聞きしたいことがあるんですけど」


コンコン、と木のドアをノックする。
すると、すぐにドアは開いたが、同時に小屋の中から熱気が吹き出した。
ホグワーツの森番である大きな大きな男の人が顔を出す。


「おお…、ええと、確か、」
です」
「ああ、そうか。そんで、そのが、俺に一体何の用だ?」
「その、ええと、少し気になったんですけど、その、もしかしてあなたが、法律違反の、その――、ドラゴン?なんかを育てているのではないかと、その、気になったもので」


そう言うと、ハグリッドは目に言えてうろたえた。
「いやそんなバカな――。いくら俺でも、そんなことをするわけが。いやでもドラゴンは確かに面白い奴らだ。ずっと欲しいと思っちょった。だがしかし――」
ああ予感が当たってしまったんだな、と苦笑する。
最後の宿題を仕上げてしまおうと思って行った図書館で、珍しくハグリッドとすれ違った。そのときにドラゴンの飼い方についての本を読んでいたのを見て違和感を感じていた。
気のせいだろうと思ったけれど、今日は4月に入ったとても暖かな日。この気候には似付かない、少し行きすぎの熱気が外に漏れ出していて、一瞬ため息をついてノックをした。


「あれ、じゃないか」
「え? 何で3人がここにいるの?」


小屋の中に、蒸し風呂の中にでもいるように汗をたくさんかきながら、ロンとポッターとハーマイオニーがそこにいた。
知り合いか、とハグリッドが聞いて、ロンが「フレッドとジョージの友達」と答えた。ううむ、と一瞬唸っていたけれど、中に入るように促された。
羽織っていたコートを脱ぎながら、中に入る。


「…やっぱり、卵を孵そうとしていたんですね」
「ん、ああ、わかるのか」
「知識だけですけど、一応は。これは、ノルウェー・リッジバックね」


暖炉の中に大きな卵が一つ置かれていた。
卵をこんなに近くで見るのは初めてだ。本では何度も見ているけれど、やはり大きさや質感はまるで違う。


って、ドラゴンに興味があるの?」
「ドラゴンっていうか、魔法生物全体に興味がある、かなあ。家が獣医なの。ダイアゴン横丁でお店を出してるから、もしなにかあったら来て」
「ダイアゴン横丁? もしかして、あのオーランド・の孫かなんかか?」
「え、おじいちゃんを知ってるんですか?」


知ってるも何も、とハグリッドは声を大きくした。
おじいちゃんは、その筋では少し有名という話だったが、普通の魔法使いだったら全く関わらず名前も知らずに生きていける。
ハグリッドが知っているのは意外だった。


「知ってるもなにも、俺はあんなに魔法生物に詳しい人を他に知らん! どんなに巨大で凶暴な魔法生物でも、あの人にかかったら赤子のようなもんだ! いずれドラゴンだって手なずけちまうだろうよ」
「…それは、うん。今ドラゴンの研究してるので、そのうち手なずけちゃうかもしれませんね」


その研究をしているせいで、私はドラゴンの巣においてけぼりにされました、とは言えない。
私は急いで話題を戻した。


「でも、これはどうやって手に入れたんですか? 相当大変だったと思いますけど」
「賭けに勝ったんだ。昨日の晩、村まで行って、ちょっと酒を飲んで、知らないやつとトランプをしてな。はっきり言えば、そいつは厄介払いして喜んでおったな」
「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」


ハーマイオニーが尋ねた。
ここの小屋では育てられないだろうし、森だって駄目だ。
一番いいのは、生まれ故郷に帰すことだけど、それも難しいだろう。


「それで、ちいと読んどるんだがな」
「…まさか、ここで育てる気ですか?」


その質問には答えず、ハグリッドは鼻歌を歌いながら火をくべた。


「ドラゴンの卵を持っている人が、そう簡単に都合よく、ハグリッドさんの目の前に現れるものでしょうか」


もう一つ続けた疑問にも返答はなく、私はふうとため息をついて、小屋を出た。



(なんだか怪しいなあ。そう考えているのは私だけかな)


2012.7.22 三笠