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止まった場所はやはり暗い森の中。
大木や身長の高い草のおかげで、その空間だけが隠されているような錯覚に陥る場所だった。
何頭かの一角獣が囲んでいるのは、怪我をした一角獣だろう。
私は、そっと近づいて傷の具合を見る。
だいぶ血を流したようで、血液補充薬を一角獣に飲ませた。
それに杖を出して、応急処置をする。


「エピスキー!癒えろ!」


魔法で軽い応急処置が出来たのを確認し、血をぬぐって、塗り薬を取り出した。
黄色のねばっとしたクリームで、少しにおいがきつい。
すべての傷口に塗り終えると、すでに何箇所かの傷は癒えているようだった。


「あとは、たくさん食べてゆっくり休息をとれば大丈夫だよ」


何度か頭を撫でてあげると、気持ちがいいのか、手に頭をこすりつけてくる。他の一角獣も、私の背中や腕、足に頭をこすりつけて感謝を伝えてくる。
みんなを一通り撫でて、そして誰か城まで送ってくれないかと聞いてみた。
すると、その中で一番大きな一角獣が私に背中を向けた。


「ありがとう。また困った時があったら、いつでも来てね」


そう最後に言って、私は一角獣の背中に乗った。
今度はしっかりと首に捕まってから空を飛ぶ。急ぐでもなく、束の間の空の旅を、やはり必死でしがみついてどうにか過ごした。




元いた場所、つまりハグリッドの小屋の近くに着地すると、そこにはハグリッドとマグゴナガル先生がいた。


「まあ!ミス・!これは一体どういうことです!」
「マクゴナガル先生…、あの、一角獣が怪我をしておりまして…それで私、一角獣に連れられて、その、住処に行って治療を…」


一角獣を何度か撫でると、すぐに元の森へと帰って行く。
それを見送るのもできず、マクゴナガル先生のしかめっ面を見上げながら事情を説明した。


「一度先生方へ相談した方がいいかとも思ったのですが、その、ほぼ無理やり連れて行かれまして」
「ハグリッドからも聞きましたわ!まったく、森の中には危険な生物がたくさんいると知らなかったわけではありませんね?あなたが、少し特殊な能力を持っているにしても、そして一角獣を助けるための知識を持っていたにしても、…あなたの行動は、軽率だったと言いざるを得ません!」


マクゴナガル先生の後ろで、少ししょぼくれたハグリッドが立っている。あれは不可抗力だったということは、ハグリッドから伝わっていないのだろうか。俯き加減に先生の話を聞きながら、少し不満をもった。


「よって、グリフィンドールから5点減点。…それと、あなたの言う、その、怪我をした一角獣はどんな状態で、どんな措置をしましたか?」
「はい、一角獣は―――」


先ほど見た様子と、応急処置の魔法、使った薬品名などを伝える。
それに加えて、一角獣を攻撃した人物がいるということも伝えた。


「よろしい。非常に具体的で、そして適切な処置です。グリフィンドールに20点差し上げましょう。もうすぐ夕食が始まります。早く広間へ向かいなさい」
「はい、マクゴナガル先生。ありがとうございます」


ひとつお辞儀をして、それから小走りで城へ向かった。
私が大広間に着いてすぐに夕飯は始まって、誰にも何も伝えないまま、夜は更けて行った。



(疑問ばかりが増えて行く。これはなにかが起きる前ぶれかしら)


2012.7.27 三笠