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一角獣を攻撃した誰かは誰なんだろう。
一角獣の血を飲めば、瀕死の状態の者さえ回復するけれど、けれどもその分一生解けぬ呪いにかかる。
それでも一角獣の血を飲みたがる誰かなんて、ホグワーツにいるはずがない。
そこまで考えたところで一旦停止。

いよいよテストが近付いてきて、その他になにかを考える暇なんてどこにもなくなったからだ。
目の前の本から重要な部分を書き写し、時折呪文の練習をする。
それを何週間も繰り返し、ようやくテストは終わりを迎えた。


「これで終了っと。アリスもアンジーも終わった?」
「ええ。おつかれさま」
「私も終わったけど、今日からまたクィディッチの練習よ。うずうずしてたから嬉しいけど、ちょっとは休みが欲しいわね」


ふうとため息をつきながらも、アンジーは笑みを浮かべていた。
グリフィンドールは、ポッターたちの大幅な減点によって他の寮に大きく引き離されながらも、徐々に点数を重ねている。
もしかしたら、最後の試合に勝てばどうにかなるかも――、というのは、みんなが期待していることだ。
テストが終わり、今学期がもうほとんど残っていないことも考えると、それ以外に方法がないとも言える。だって、暫定1位のスリザリンとは200点近い差があるもの。この差を埋めるのは相当難しい。


「最後の試合が近いものね。応援に行ってもいい?」
「それは私の?それともジョージの?」


アンジーのその言葉に驚いて、持っていたコップから紅茶が少しこぼれた。
うそだまさかそんな。アンジーにもバレてたなんて知らなかった。でも、ああ、そっか、そうだ、ホグズミードに行った時にいろんな子に「ウィーズリーと仲いいの?好きなの?」って聴かれたんだった。バレてても不思議じゃない…っていうか、逆にアンジーにバレてなかったらびっくりだ。


「噂でしか知らないんだけど、あなた、ジョージが好きなの? 去年までは全然そんなそぶり見せなかったのに」
「…う。去年までは喋ったことなかったし」
「今年はよく話してるけど、それはなんで?」
「なんでって…。偶然ちょっとだけ話して、それから時々話すようになったっていうか…」


ぼそぼそとアンジーの言葉に答えて行く。
今更だけど、私とジョージの共通点ってつまり同じ寮で同じ学年ってそれだけなんだなあって思った。


「告白するつもりはないの?」
「そんな勇気は…ちょっと…」
「あら、すればいいのに。応援するわよ?」


かわいくて美人でスタイルがよくておもしろくてクィディッチが得意で、男の子に人気があるアンジーだから言えることだよ、と思った。
自分に自信がなくて嫌になる。どうせ断られるくらいなら言わない方がいいなんて、思いたくないのに思ってしまう。


「もしも自分が、誰もが振り返るような美人で勉強も出来て運動も出来て、おもしろいことも言えて。そんな完璧超人だったらジョージも振り返るんじゃないか、なんて考えてる?」
「…!」


思わずはっとしてアンジーの顔を見る。


「違うでしょ? もしもあなたがそんな人だったとしても、結局悩むのよ。だって、恋はステータスだけじゃ決まらないもの。大事なのは相手があなたと一緒にいたいと思うかどうかでしょ?」


アンジーの言葉を聞いて、思わず俯いた。
ジョージは私と一緒にいたいと思ってくれるかなあ、なんて。
確か前に一度だけ同じようなことを聞いたことがあった。
「楽しいよ、すっごく」
そう言ってくれたあの顔は忘れられない。これって脈ありかなあ、なんて思うけど、どうにもこうにも、告白まではまだ遠い気がする。


「まあ、あなたのペースでいいと思うわ。けど、もしなにか展開があれば、教えてほしいわね。できるなら、あなたの口から」
「あ、うん…ありがとうアンジー」


相談しなくてごめんね、と続けると、アンジーはふふっと笑って頷いた。



2012.7.28 三笠