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朝、目が覚めて、マダム・ポンフリーの診察を受ける。
足は包帯が巻いてあったが、すでに完全に治っていた。
マダムは満足そうに頷いて、それからもう行ってよろしいとの許可をもらった。
カーテンを閉め切ったベッドの上で着替えをして、それから靴を履こうと足をベッドから下ろす。そのとき。


!?」


ジョージが、走ってきたようで、少し息を切らしながらカーテンを開けた。
後ろにフレッドくんがいて、軽く覗いてすぐにどこかへ行ってしまった。


「あ、ジョージ…、おはよ」


う、と続けようとしたが、その前に有無を言わさず抱きしめられた。
強く、少し苦しいくらいに抱きしめられて、びっくりして硬直する。完全に顔をジョージの胸に押しつけられてしまって、顔を見ることはできない。


「…じ、で」
「え、」
「無事で、よかった…」


ぽつり。零れた言葉を聞いて、胸の中が幸福でいっぱいになる。
心配してくれたこと、走ってきてくれたこと、いろんなことが嬉しくてうれしくてたまらなくなる。
ジョージは、私が無事なことがわかって、ようやく手の力を緩めた。


「ありがと」


笑みを浮かべてそう言うと、ジョージは照れたように笑った。
離れそうになるのを引き留めるように、思わずジョージの服の裾を掴んだ。
それに気づいて、ジョージは離れるのをやめて、そして、ゆっくり、私の頬に手が触れる。その手に促されるように顔を上げて、そして、目の前の顔が、ゆっくりと近づいてくるのが分かった。

そっと近づいて、唇が触れそうになる。抵抗、しない。できない。
呼吸すらも感じられるような距離。
あと3センチ、2センチ、1センチ―――。


「おいジョージ!そろそろ行かねーと、朝食始まっちまうぜ!」


きっとお互いにうっとりしていたような、ぼんやりした気持になっていたのだろう。隣のベッドの方から聴こえたフレッドくんの声を合図に、私たちはお互い急いで離れた。顔が真っ赤になってしまって、もう顔を上げられず、俯き加減に言葉を紡ぐ。


「ご、ごめ、」
「えっ、あ、ううん、こっちも」


どきどきどきどき。とまらない。
ぱっと離された腕、体。私は靴を履いて、なんだか久しぶりに、床に足をつけた。痛みもなく、普通に歩けるようになっていた。


「あなたたち!まだ一人眠っているんですから、静かになさい!」


マダム・ポンフリーの声が響いて、それからすぐにフレッドくんと、ロン、ハーマイオニーが顔を出した。
二人がここにいるってことは、眠っているあと一人はポッターだろう。
私とジョージもその3人と一緒に医務室を出た。



(夢を見ていたんじゃないかって思うくらい、ありえない出来事。さっきのはどういうことだったんだろう――誰かに聴きたいけど聴けない。もしフレッドくんの声があと5秒遅かったら、もしかしたら私たちは)


2012.7.28 三笠