かたんかたんと揺れる列車に乗って、女同士でいろんなことを話した。 夏休みは何をするとか、どこへ行くとか、一緒に遊びましょうよ、なんて話もした。 そんな話をしていると、長いはずの列車の旅もすぐ終わってしまって、トランクを持って列車から降りた。 家族が迎えに来ている友達に「じゃあまた新学期に」と一言告げて、トランクを引いて出口へと向かう。 おじいちゃんはまだロンドンに帰っていないらしい。今年も迎えはなしだろうとは思っていたがどうやら予想通りになりそうだ。 「?」 「あ、セドリック」 ガラガラとトランクを引いていたら、セドリックに声をかけられた。 セドリックは、母親と合流したばかりのようで、母とのハグを終えてすぐにこちらに手を振ってきた。 「クィレルに失神させられたって聞いたけど、大丈夫かい?」 「う…。それ忘れて。本当のことだけど、情けないから」 「はは。情けなくないよ。怪我をしたって聞いたけど、そっちは?」 「マダム・ポンフリーに治してもらったから大丈夫」 良かった、とセドリックは笑った。 「夏休み、手紙だしてもいい?」 「えっ…? いいけど…」 「じゃあ、出す。宛てに梟を出せばいいよな?」 「うん。それで届くよ」 私も書くね、と続けようとしたとき、後ろからばしんと強く背中を叩かれた。軽く咽ながら振り返ると、ジョ、じゃなくて、フレッドくん。 「、なにディゴリーと話してんだよ。うちのママさんが話したいって探してるぞ」 せっかちにも、私のトランクをガラガラと引いて先に行ってしまう。 そのまま任せるわけにもいかなくて、後を追いかける。 「じゃあ、セドリック。またね」 「ああ、楽しい夏休みを」 「セドリックも」 ばいばい、と小さく手を振ってフレッドくんを追いかける。 その途中の人ごみの中で、フレッドくんは私を振りかえった。 「あいつと仲いいの?」 「え? ううん…授業が一緒でちょっと話しただけ」 「そ。あいつ、君のこと狙ってるみたいだから気をつけた方がいいよ」 「…なんで知ってるの」 「あれ。君こそ知ってるなんて驚きだな。いつもスッゲー鈍いのに」 本人に聞いた、と言うと、フレッドくんは納得したような顔をした。 すっかり忘れていたけど、そういえばそんなこと言われてたんだっけ、と今さら少しどぎまぎする。 「じゃあ、あいつ本気なんだ。君のこと」 「う…。そう見える?」 「見えるっていうか…、なに、わかんない?」 「あの人と話してても、私をその、すき、とかはわかんない」 「アーー、ばっかだなあは」 呆れたようにフレッドくんは深いため息をついた。 どう考えてもバカにされているだろうが、わからないものはわからない。 「この人だかりの中ですぐに見つけたり別寮なのに仲良くしたがったり、それだけで好きだってわかるだろ」 ぼっと顔に熱が集まる気配がした。 それだけでわかるんだ、とも思ったし、やっぱりあの人本気なんだ、とも思った。 でも、それをそのまま鵜呑みにすることもできなくて、ぼそっと反論してみる。 「……フレッドくんも見つけたじゃない」 「見つけたのはジョージのほう。あいつは割って入るのは悪いとか言って先に家族の方行ったよ。完璧に動揺してたから、早く姿見せて安心させてやってよ」 「え、うそ」 「ほんとほんと。…え、なに笑ってんの」 ジョージが見つけてくれたって、それだけでなんだか嬉しくなってしまって、思わず笑ってしまっていたらしい。 フレッドくんは怪訝そうな顔をして、首をかしげた。 「ちなみに、夏休みにジョージと会う約束ないの?」 「な、ないよ…。多分、ほぼ毎日家で店番してるけど」 「店ってどこだっけ。ダイアゴン横丁?」 「そうそう。煙突飛行粉で『けもの道』って言ってもらえればすぐだよ。そのまま受付に繋がってるから、お客さんとしてでも友達としてでも来てもらって大丈夫」 「オッケー。ジョージにも伝えとく。どうせ言ってないだろ」 もちろん言っていない。 あ、そういえば箒の乗り方を教えてもらう約束してたんだっけ。 夏休み中に箒に乗れる場所ってあんまりないし、次の学期にしようかなあと思った。 「お、いたいた。ジョージ、捕まえてきたぞ」 「えっ」 ジョージもいたけど、ロンにモリーさんもジニーもいた。 フレッドくんはトランクを置いて、その輪に入って行った。 「まあ、!お久しぶりね」 「モリーさん、お久しぶりです」 挨拶をして私はフレッド君の隣に立とうとした。が、その前に頭にぽんと手が乗った。うん?と思って上を向くと、今年卒業のはずの従兄がそこにいた。 「一人で帰れる?」 「うわっ、お兄ちゃんなに。帰れるけど、どっか行くの?」 「俺このまま卒業旅行行くから、暫く帰んねーわ」 「え? あー、うん。わかった。いってらっしゃい」 おー、と一言告げて、どこかへ行ってしまった。 ばいばい、と手を振るが、たぶん見ていないし気づいてもいない。 「、兄貴いたんだっけ」 「ううん、従兄だよ。ハッフルパフの7年生。今年卒業だって」 「…もしかして前に廊下で喋ってた?」 「? うん、そうかも」 ジョージにそう訊かれて、頷く。 学校ではあんまり話さないから、よく気付いたなあと思う。 「あれ、でも最後に話したのって確か10月くらいじゃないかな。よく覚えてたね」 フレッドくんがその言葉にふっと吹き出して、肩を震わせて笑っているのが分かった。 ジョージはちょっと気まずいような顔をして、視線を逸らす。 え、なに。なんなの、この展開。 「は一人で帰るの? 私たちは車で来ているし、送っていきましょうか?」 「えっ、いいえそんな!大丈夫です。すぐですし、荷物も重くないし」 モリーさんの言葉に、全力で遠慮する。どう考えても道が違うのに、甘えてはいられない。 トランクは魔法をかけてあって、少し中が広めに、そして軽く感じるようになっているし、家までは本当にすぐに着く。せいぜい30分程度だ。 「あ、そうだ、」 ジョージがフレッドくんの横から話しかけてきて、思わず身構えてしまう。 そちらを向くと、苦笑したような顔が見えた。 未だに、数日前にキス、しそうになったことは覚えていて、つい意識してしまってマトモに顔を合わせることは難しい。 「箒、どうする? 乗り方教えるってやつ」 「あ、そうだった。でも、うちの近くは飛べる場所ないから、新学期にでも…」 「うちの近くに小さな森があって、少しくらいなら飛んでも気づかれないんだ。もしがうちに来てくれれば、いつでも教えるよ。学校だと、誰かに見られる可能性もあるし、どうかな」 「…え、家に行ってもいいの?」 アリスやアンジーがいたら「絶対行きなさいよ!大進歩じゃない!」とぐいぐい押されるであろう提案だ。 私としても、それは本当に本当に願ってもいないことだけど、本当にいいのかなあとジョージの顔を見上げてみる。フレッドくんも「来いよ」と言ってくれたので、お言葉に甘えようかなあと思う。 「じゃあ、お願い、します。どの辺り?」 「オッタリー・セント・キャッチポールって村知ってる?」 「ええと…名前だけは」 「その村からちょっと外れたところにあるんだ。煙突飛行粉使って来てくれれば楽だと思うよ。僕らは基本的に家にいるしいつでも大丈夫だけど、の予定は?」 「私も、店番くらいしかやることないから、いつでも大丈夫。じゃあ、一週間後くらいに一回お邪魔してもいいかな…? いったん家に帰って予定表見ないといけないから、ちゃんと予定わかったら手紙出すね」 「了解」 つい最近まで意識しすぎて喋れなかったけど、内容があればどうにか普通に喋れる。 手紙出すね、と言ったら、連れてきた梟が小さく「ホウ」と鳴いた。自分が届けたいというアピールだろう。家にはたくさん梟がいるから、必ずしもこの子が届けるわけじゃない。 籠を少し撫でながら、時計を見た。もうそろそろ帰らないといけないだろう。 いつまでもウィーズリー一家全体を引きとめてしまうわけにはいかないし。 「じゃあ、そろそろ行くね」 「ああ。また今度」 「うん。モリーさんたちも、またよろしくお願いします」 そう言って私は駅を出た。 ウィーズリー一家はみんなやさしくておもしろくて、今から家に行くのが楽しみだ。もちろん、不安も緊張も恥ずかしさもあるけど。それすらも吹き飛ばしてしまうくらい、楽しそうだと思う。 なんだか今年は、いい夏休みになりそうだ。 2012.7.29 三笠 第1章おわり!でも、まだまだ続く予定です^^ |