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手紙を読んで、日時と場所、方法を確かめる。
日にちは今日…合ってる。時間は10分後…、場所は隠れ穴、方法は煙突飛行粉を使う…。よし、全部合ってる。

という確認をすでに5回はおこなっている。
箒と煙突飛行粉を1袋(帰りに使う分と、煙突を使わせてもらうお礼も兼ねて)、それにお昼ごはん用に作ったキドニー・パイを包んだ。

洋服はマグルのもので、なるべく動きやすいようにスカートは避けた。
半そでのちょっと可愛いカットソーに、7分丈のパンツ、それにスニーカーだ。髪はまとめようか迷って、お団子にすることにした。夏らしいし、それに涼しい。

そうこうしているうちに時間になって、私は煙突飛行粉を少しだけ握り、荷物を持って暖炉に入った。


「隠れ穴!」


しっかり着地したのを確認してから暖炉の外に出る。
リビングには、ジョージとフレッドくんが待っていた。


「お、時間ぴったり」
「二人とも久しぶり。元気そうだね」
こそ」


箒は片手に、他の荷物はテーブルに置かせてもらった。
今は午前10時ちょうど。辺りを見渡すと、魔法使いの一般家庭らしいいろんなものが目に入った。
人数を考えるときっと狭く感じるだろうが、使いこまれたテーブルに椅子、台所や重なった本たち。生活感があって、温かみがあって、いい家だなあと思った。


「モリーさんは?」
「洗濯中。外で布団のシーツやら僕らの服やら、いろいろ洗ってるよ」
「そっか。あとで挨拶しなくっちゃ。これ、キドニー・パイを作ってきたんだけど、食べるかな…? あと焼くだけなんだけど」
「えっ、が作ったの?」
「うん。みんなの口に合えばいいんだけど」


大きな布で包んできたパイを出す。
まだ焼く前だけど、二人は食い入るようにそれを見つめた。


「ウワー、昼間っから家でキドニー・パイを食べる日が来るとは思わなかった」
「これはママさん大喜びだぜ。なんたって、昼飯を作らなくてもいいんだもんな。焼くだけなんて作るうちに入らないし」


煙突飛行粉をその隣に置くと、二人は不思議そうにこちらを見つめた。


「あれ、そのくらいうちの使えばいいのに」
「や、そこまで甘えられないよ! 一回で箒に乗れるようになるとは思わないし、何度も来るなら最初に一袋分、と思って」
って、そんなに箒に乗るの下手だっけ」
「下手なんて言葉でおさまらないくらい。そもそも高いところがもうダメ」


くすくすと二人が笑っていると、ドアの外からモリーおばさまが入ってきた。
こちらに気づいて、笑顔で近寄ってくる。


「あらあら、!いらしてたのね」
「モリーさん!お邪魔してます。あの、良かったら、このキドニー・パイ、お昼にでもどうぞ。あと焼くだけですので」
「まあ!ありがとう、いただくわ」


パイを眺めて、「おいしそうだわ」と言ってにこにことそれを台所へと持って行った。
それを見送ってから視線を戻すと、必死で目を合わせないようにしていたジョージと、目があった。
思わず逸らしてしまって、箒を握りしめる。


「じゃ、ジョージ。部屋で昨日の続きしてるから。昼飯の時間になったら呼びに行けばいいよな」
「ああ、うん。頼んだ」
「りょーかい。、森はあっちな。怪我しないように気をつけろよ」


フレッドくんは、それだけ言って階段を上って行ってしまった。
残されたのは私とジョージ。一瞬視線を合わせて、慌てて逸らす。(これはお互いに)
少しの沈黙が流れた後、


「…行く?」
「う、うん」


二人きりになると緊張が桁違いだ。
いつでも心臓がおかしくていつもよりもずっとずっと早くって、それでもこの感覚がなんだかきもちよくって。
ジョージが私の速度に合わせて歩いてくれるのが、うれしくてうれしくて、こっそり笑った。



2012.7.29 三笠