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結局、そのあとも箒に乗る練習はしなかった。
森の中で座り込んで、いろんなことを話した。
いつ好きになったとか、本当はこの時こういうことがあって、とか。
恥ずかしいこともあったけど、全部全部伝えた。
両思い期間はすごく長くて、「もっと早く伝えればよかったかな」と私がつぶやくと、「人生最後の片思い期間だからちょっと長いほうが良いんだよ」と返ってきた。
もう私以外を好きになる気はない、と言外に言っていて、嬉しくてまた笑みがこぼれた。


「おーい、ジョージ? ? 昼飯の時間だぞ」


森の中をざくざくと音を立ててフレッドくんが歩いてきた。
すぐにこの場所を見つけて、座り込んでいる私たちを見て驚いたようにこちらへ来た。


「箒はもう終わったのか?」
「あー…実は全然やってない」
「はあ? じゃあ何してたんだよ」


怪訝そうな顔をするフレッドくんだけど、私たちは一度目を合わせてくすくすと笑った。
そして、ジョージは私の手をとって、フレッドくんに見せるように高く掲げた。いきなり握られた手の感触に、びっくりして、ぎゅっと心臓が縮こまった。


「こうなったんだ。ずっと話してた」


あ、と呟いたフレッドくんはびっくりしたように目を丸くしていた。
ジョージは「戻ろうか」と言って、手を離さずに立ち上がる。私は箒を持って、ジョージに引っ張られて立ち上がった。


「アー、…おめでとう?」
「ありがとう。フレッドくんはずっと気づいてたんだよね?」
「まあ、一応。でも今日くっつくとは思ってなかった」


少し居づらそうなフレッドくんは、少しもやもやと考えていたようだけど、すぐに振り切ったように笑みを見せた。
そして、後ろに回って、私とジョージの背中を押した。


「ママさんに言ったら超喜ぶぜ。のこと気に入ってたし。には僕たちの計画を全部教えてやるよ。あとで僕らの部屋に来るといい」
「W.W.Wのことか?」
「おう。ジョージも別に構わないだろ? 成績優秀だし、手伝ってもらえれば早く実現できる」


ウィーズリー・ウィザード・ウィーズってなに?
そう訊いても、二人はニヤリと笑っただけだった。
森を抜けるとさわやかな風が吹き抜けた。
坂の下に、ウィーズリー一家の住む家が見える。


「今度、うちにも来てね」
「え? 行っていいの?」
「うん。うちのかわいい魔法生物たちを紹介するね」
「…なんか、のかわいいはあんまり宛てにならない気がするんだけど」


ジョージが少し眉をひそめてそう言った。
以前、ホグズミードで猫に対する感想を聞いた時からそう思っていたのだろうか。
でも、私にとっては可愛いものは可愛いので、言い返す。


「そ、そんなことないって! いろいろいるんだよ、梟とかナールとかニーズルもかわいいけど、あ、パフスケイン!パフスケインはすっごいかわいいし、今はアブラクサンが2頭遊びに来てるし、それに」
「ちょっと待て。今結構変なこと聞いた気がするんだけど。なに、アブラクサンって」
「え?天馬だよ?」
「天馬が遊びに来るってどういう家だよ…」


フレッドくんが呆れたように息をついた。
正直なところ私も普通の家じゃないなあとは思うから、しかたがないけど。


「気になるなら、ダイアゴン横丁の『けもの道』へどうぞ。ペットの販売はしていないけど、ペットの相談・診療にはお答えできます」
「何気に商売上手だよな。今の聞いてるだけでちょっと気になる」


くつくつとフレッドくんは笑った。ジョージも、手をぎゅっと握って笑った。
それにつられて、私も頬が緩んだ。


「夏休み中に1回くらい行きたいな」
「うん。教科書買いに来るでしょ?そのときでもいいし」
「つうか、夏休みのうちに2人でデートくらいしとけよ」
「で、デート…?」
「え、なに、は嫌なの?」


握った手が熱くなるのが分かった。
デートはそれはもちろんしたいし、できたら嬉しいし楽しいだろうけど、ホグズミードを半日一緒に歩いただけで緊張とどきどきでいっぱいいっぱいだったのに、恋人として歩くってそれはより一層緊張するんじゃないだろうか…っ
え、そもそも恋人ってなにするの。私の心臓がもつ気がしない。


「い、嫌じゃない…嫌じゃないけど、こう…、緊張する…っていうか」
「ああ、大丈夫、僕も同じだから」


顔を赤くしてぼそぼそと喋る私と、それを見て笑顔を見せるジョージ。
それと、その隣でやれやれとでも言うように苦笑して、そして坂を勢いよく駆けて行った。


「お前らはゆっくり来いよ。先にお前らの分まで食っててやるからさ」


それを見て、私はジョージと顔を見合せて、笑った。
フレッドくんが家に向かって駆けて行く姿を見ながら、二人でゆっくりと歩いた。

まだまだ緊張するし照れるし恥ずかしいことばっかりだけど、一緒にいられるだけで嬉しくて、楽しくて、幸せで。


【ずっと一緒にいられたらいいな】


そう言ったら、


【いられるんじゃないかな。少なくとも僕はそのつもりだけど】


なんて、簡単に言うから、私はくすくす笑いながら、握られたままだった手を、勇気を出して握り返した。
そしたら、ジョージのほうが赤くなって顔をそむけた。私よりずっと身長の高いジョージが隠そうとしたら、背伸びしても見られない。覗こうとしていたら、肩で軽く小突かれた。
それでも、その理由を考えたら嬉しくて幸せで、思わず笑みがこぼれた。


(手をつないだだけでこんな幸せなんて、それ以上したらどうなるんだろうな)
(…え、それ以上って…)
(だから、キスとか…)
(えっ、あ、そ、そっか…そうだよね…うわあ…)
(顔真っ赤だよ。手も熱くなってる)
(ううううるさい…っジョージだって顔赤いし)
(かわいいが相手ですから? まあ、急ぐわけでもないし、手を繋いでも呼吸困難にならないくらいになったらしようか)
(う……うん)
(とはいえ、さっさと行かないとマジで昼飯なくなるな)
(急ぐ?)
が転びそうだから早歩きにしよう)
(こ、転ばない!さすがに転ばないよ!)
(そう?)
(そ、そう! って、わっ)
(…ふ、くくっ…言ったばかりなのに…)
(うう…ありがとう…)


2012.8.1 三笠
そんなこんなで彼氏彼女の二人の話がここから始まります。
原作に沿ったり、沿わなかったり、ひたすらいちゃいちゃしたり喧嘩したり、そんな彼らをこれからも描いていきたいですね。
応援して下さったみなさまありがとうございます!
そしてヒロインちゃんとジョージに!おめでとう!って、心から言いたいです。
おめでとう!そしてありがとう!これからもよろしくです。