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 夏休みが終わって、新学期が始まる。
 9と3/4番線からホグワーツ特急に乗り込んだ。監督生はコンパートメントが分かれているらしくて、いつものようにアンジーやアリスとは過ごせない。残念だけど仕方がない。他の監督生たちと話しながら、時折見回りをして過ごした。監督生の役割だとか特権とか、説明を聞いて、それからついでにO.W.Lのことも聞いて。いつもとは違うけれど、それなりに楽しく過ごしていた。
 そろそろホグワーツに着くだろうというところで、いきなり列車が止まって暗くなった。なんだろうと車内がざわついている間に、すーーっと冷たい気配がした。体の内側から暖かい気持ちがすべて吸い取られていくような、気温が急激に下がっていくような、そんな感覚。吸魂鬼だ、と気づいたのは一度経験したことがあったから。幸いにも、こちらのコンパートメントに興味はないらしくて、廊下を滑るように去っていった。


「なんで吸魂鬼が!?」
「あれがそうなのか。初めて見た」
「ねえ、これ大丈夫なの?」


 先生方はいないのかとざわつくコンパートメント。でもこの列車の中で先生方を見た記憶はない。見回りをするにも、吸魂鬼に会って立ち向かう術を知らない。どうしたらいいのかと考えている間に、車内は明るくなり、列車が動き始めた。


「ああ、ここは監督生のコンパートメントだね?」


ノックの音と同時に、初めて見る人が入ってきた。皆が警戒態勢をとっていて、何人かは杖を握りしめていた。


「わたしはルーピン。今年度から『闇の魔術に対する防衛術』の教師になる予定だ。早速で悪いが、監督生諸君。先ほどディメンター、吸魂鬼が車内を点検した件で、一度見回りをしてくれないか。もし倒れたりショックを受けたりしている生徒がいたら、チョコレートを少し食べさせてやってくれ。これが一番よく効く」


 ルーピン先生はまだやることがあるらしく、車掌室へと小走りで移動していった。わたしたち監督生は戸惑いつつも、車両販売の魔女からチョコレートを分けてもらって車内を回った。
 ハリーが倒れたということはこの見回りで知ったけれど、既にルーピン先生がチョコレートを渡していたようだった。

 ホグワーツに到着してからもとても慌ただしく時間は過ぎていった。1年生を先導してから席に着く。ここでようやく、いつもの友人たちの隣に座った。見回りの時に少しだけ話したけれど、ほんの一言二言だったから、本当に本当に、ようやくだ。アンジーとアリスが空けておいてくれた席に座る。


「おつかれ」
「ありがとう。まさか吸魂鬼が出るなんて思ってなくて、すごく焦ったわ」
「そりゃそうよ。あんなの大人だって怖いわ」


 テーブルの向かい側にはジョージとフレッドとリーが座っていて、目が合った。私服のジョージやフレッドは何度か見ていたけれど、制服姿は久しぶり。なんだか少し嬉しくなってしまった。


、大丈夫だった?」
「すぐにルーピン先生が来てくださったから大丈夫。そっちは?」
「こっちも問題なし。俺らのコンパートメントにマルフォイの奴が転がり込んできたけどね。なんであんな奴らが列車に乗ってきたんだ?」
「わからない。さすがにダンブルドア先生から話があると思うけど」


 顔を先生方の席へ向けると、だいぶ集まり始めているようだった。ダンブルドア先生が辺りを見渡して、急ぎ足でスプラウト先生が入ってきて着席するのを見届ける。これで全員揃い、ダンブルドア先生は挨拶をするために立ち上がる。


「おめでとう! 新学期おめでとう! 皆にいくつかお知らせがある」


 皆静まり返って、ダンブルドア先生に視線が集まる。そこで話されたのは、ディメンターのこと。ホグワーツの入り口を見張っているため、許可なく学校の外に出ようとすると、非常に危険なこと。監督生と首席はしっかりと見張っておいてほしいと付け加えられた。
 そして新しい先生の紹介。列車で会ったルーピン先生が『闇の魔術に対する防衛術』の科目に就任すること。『魔法生物飼育学』のケルトバーン先生が引退して代わりに森番をしていたハグリッドが就任すること。今年の教科書は随分と暴れん坊だと思ったけれど、怪物好きなハグリッドが教師になるなら納得だ。どんな授業になるんだろう、わかりやすいといいなと思う。なにせ今年はO.W.Lの年だし、シリウスさんの影響で外に出るのも一苦労だ。なるべく心労は増やしたくない。


「今年もなんだか大変な一年になりそうね」
「本当に。去年秘密の部屋の騒動が終わったと思えば、今年は殺人鬼。いい加減にしてほしいわ」


 新学期のお祝いのご馳走を食べながら、今年のこと、夏休みの出来事などいろいろ話しながら過ごした。次第に、今シーズンのクィディッチの話だとかジョージたちの楽しい悪戯話に話は移り変わっていって、気づいたらお腹を抱えて笑っていたけれど。食事を終えて、監督生は1年生を引率するということを忘れかけて、慌てて走ったことを除けば、悪くない一日だった。


(監督生=自分だってことにまだまだ慣れない……)


2020/06/08 三笠