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 自室で机に向かって教科書を読みつつ宿題をする。宿題なんてたまに出るくらいだったのに、授業初日の今日、全科目で宿題が出てしまった。これが噂のOWLの年かあ、と実感しながら、羊皮紙に文字を綴っていく。

「ねえ、。ここ教えて。ビンス先生がなんて言ってたか覚えてる?」

 アンジェリーナの質問を聞いて、自分のメモを見返す。辛うじて書かれていた内容を読み上げると、アンジェリーナは納得したのか、お礼を言って自分の机に向き直った。部屋では珍しく、教科書をめくる音と羊皮紙にペンを滑らす音しか聞こえない。あとは時折誰かが吐くため息くらい。普段の賑やかな部屋とは大違いだ。

「今日中に終わるかしら」
「終わらせなきゃ……。だってアンジーは来週からクィディッチの練習があるんでしょ?」
「そう、そうなの。本当なら今日久しぶりに箒に乗りたかったのに、こんなに宿題が出るなんて」

 心底悔しそうにしながら、アンジェリーナはため息をついた。同じクィディッチチームのジョージとフレッドはきっと宿題なんてほとんどやってないと思うけれど、それはそれ。これはこれ。アンジェリーナは真面目だから宿題はちゃんとやって提出する。たまに私のを写すこともあるけれど、多少のことは目をつぶってもいいだろう。

「今年はウッドが7年生だから、きっとすごく気合が入ってると思うの」
「練習時間がとんでもなく長くなりそうだけど大丈夫?」
「ウーン、どうかしら。宿題とクィディッチとの両立で今年はしんどそうだわ……。時々宿題見せてもらうかも」
「それは構わないけど、体調には気を付けてね」

 グリフィンドールのクィディッチチームは優秀だと思うけれど、優勝したところは見たことがない。惜しいと思うところまでいくのに、あと一歩で逃す。毎年そうだった。だから、チームメンバーは今年こそと思ってるみたい。少なくともジョージやフレッドはそうで、夏休み中に時々箒に乗って兄弟で練習していたらしい。(今年はエジプトに行っててあまりできなかったとも言っていたけど)

、占い学ーーああ間違えた、あなたはとってなかったわね」
「うん、わたしはその時間、数占い学のほう」
「残念。誰かに聞きに行かなきゃだわ」

 アリスが立ち上がって部屋を出る。私はその間に魔法史のレポートを進めた。幸いにもあまり量はなくて、もうすぐ終わりそう。でもこの次は魔法薬学のレポートと、あと変身術の練習をしなくちゃーー。
 教科書をめくって最後のまとめを書く。軽く読み返して、間違いがないか確認して、……うん、OK。インクが乾くまで机に出しておいて、その間に魔法薬学の教科書を開いて、−−この辺りで部屋のドアが開いた。先ほど出て行ったばかりのアリスが戻ってきたみたい。

「ねえ、。ジョージ・ウィーズリーから伝言。宿題やるなら一緒にどう?だって。わたし、あの人が黙って宿題をやってる姿を見た記憶がないんだけど、どう思う?」
「人のを写してるところは何度か見たことあるけど」
「自分から進んでやるタイプじゃないわよね。でも意外と成績いいのよ」

 んんん、一緒に宿題をやるのはうれしいけれど、正直なところ全然進まない未来しか見えない。わたしも二人きりになると甘えたくなってしまうし。明日以降の授業も今日みたく山のように宿題が出るのなら、余裕はない……。どうしよう、悩む。

「どうしよう……」
「変身術の練習くらいなら二人でもやれるんじゃない? レポートは無理ね」
「ああ、そうだった変身術」

 魔法薬学の教科書を横目で見て逡巡する。今日の魔法薬学のレポートは、月長石の特性と、魔法薬調合に関するその用途ーー。何度か調合したことのある薬だし、どうにか、夕食後にがんばれば終わると思う、けど。

「だめだわ、夕食後にしてもらう」
「あら、厳しいわね」
「レポートはみんながやってるときに終わらせないと集中できないもの。ちょっと話してくる」
「いってらっしゃい」

 同室のみんなに見送られながら、女子寮を出る。談話室を見渡すと、一番近いソファにジョージとフレッドは座っていた。

「やあ、
「ジョージ。ごめんね、今レポートやってるから、あとでもいい? 夕食の後に変身術の練習を一緒にどう?」
「ああ、いいよ。ということはもしかして、今日出たレポートは夕食前に終わらすつもり?」
「もちろん。だって、明日も今日と同じくらい出たら終わらなくなっちゃうもの」

 そう言うと、ジョージとフレッドは顔を見合わせて理解ができないとでも言うように首を横に振った。私からすると、今日全科目で宿題が出たのにこんなに余裕そうにソファで話してる二人のほうがよっぽど理解に苦しむ。

「相変わらず真面目だな。宿題っていうのは、出せばいいだけなんだぜ?」
「評価を気にしないなら、そうかもしれないけど」
「まだ初日なのに、そんなに根を詰めてたら途中でしんどくならない?」
「でも、宿題を溜め込んでると落ち着かないんだもの。それなら早くやったほうがいいと思うわ」

 だから後でね、と言うと、苦笑しながら見送られた。フレッドなんて呆れた顔を隠しもしなかった。

「夕食はちゃんと食いに来いよ」
「わかってるって。ジョージ、夕食後に変身術の教室に行けばいい?」
「ああ、そうだな。カタツムリ借りないといけないし、そうするか」

 変身術の宿題は消失呪文。無脊椎動物であるカタツムリが一番難易度の低い動物とのこと。それでも私たちにとっては難しくて、授業中は少しだけ殻が残ってしまった。ジョージやフレッドも、実技のある授業はとても集中して受けていて、かなり惜しかったけれど、あと少しというところで消失させきれていなかった。
 夕食後の約束をして、女子寮へと戻る。そういえばと思い出したのは、先日のシリウスとの会話。試験が終わったら少し遊びにいく相談をしようかなあと頭をよぎった。

2020.06.10 三笠