手紙を読んで、そしてすぐに返事を書き始めた。ジョージからの手紙は、まず挨拶(やあ、。久しぶり。元気にしてる?)から始まって、エジプトであったことを面白おかしく書き綴って、それから夏休み最終日に教科書を買いに行くことが書かれていた。忙しいと思うけど、その日に会えたらうれしいんだけど、なんて。 夏休みが終わるまであと二週間を切った。先ほどの話だと、来週水曜日は休んでいいと言うことだったし、会う約束を取り付けられないかと思って、返事を書いた。わたしの家に来てもらってもいいし、わたしが隠れ穴に行ってもいいし。手紙を書き終えたら一度ナーレを呼んで家に戻ってフクロウ便を出した。来週会いたいなあ、会えたらいいなあと思ったら、この後もがんばれる気がして、シリウスのいる小屋へと戻っていった。 「――で、そのジョージ・ウィーズリーとはどこまでいったんだ?」 「……今日はハリー・ポッターの話題じゃないんですね」 「もう2年分話しただろ。充分だ」 夕飯を食べながら、シリウスはジョージとのことを訊いてきた。面白いおもちゃを見つけたような、にやにやとして笑みを浮かべながら。ああもしかしたらジョージたちと話が合うかもしれない、とその笑みを見ながら何気なく思った。 「いつから付き合ってるんだ?」 「一年前から」 「フーン。意外と長いな。どっちから?」 「答えたくないです」 「キスやデートは? ああ、まあそうだろうな。一年でそれすらできてなかったら振られててもおかしくない」 その後もいくつか質問を投げかけられて、なるべく表情を変えないように、返事をしないように努めた。でもシリウスは、わたしの反応を見て、答えを導き出していて、それがすべて正解だったから、この人に秘密をするのは難しいと悟った。 「たまに空き教室にでも呼び出してキスのひとつもしてやれよ。相手も喜ぶし、相当熱烈に返してくれるだろ」 「う、それはきっと、そう、でしょうけど、」 「アー、なんだ、それも難易度高いか? それじゃあ、――そうだな。たとえば」 シリウスは、動物もどきの指導よりもよっぽど楽しそうに、はしゃいでいるようだった。これじゃあ、わたしのルームメイトたちと同じじゃないかと思う。 「たとえば、ふたりきりになってなにかを適当にしゃべってるだろ。そんなとき、相手の手にちょっと触れてみる。それで相手がお前の顔を見たとき、目が合ったら目をつぶる。それだけでいい。そしたら向こうがどんな馬鹿でも、キスに誘われてるってわかる。そうしたらもう相手に任せちまえばどうにでもなるだろ」 「……む、むり」 「待て。逆にお前、この一年なにやってたんだ? キスはしてるんだろ? 全部相手からか?」 「いやあの、アー……えっと、」 殆ど全部が相手主導だったし、自分から一度だけ一瞬だけキスをしたことはあったけどあれはすごく最近の話で、あれ以外に自分から誘ったり自分からキスしたり、そういう経験は無い。そんな勇気ない。でもそんな細かい話はシリウスにしたくないし、でもしなくたって勝手にシリウスの中で結論は出ているようで、深い深いため息をついていた。 「会ったこともないこいつがものすごく不憫なんだが」 「で、でも、この間一緒に写真撮ったの」 「俺が話してるのは何年生だ?」 写真がどうしたんだと、シリウスは言って。ああそうだ、そういえば私はなかなか言い出せなかったけど、確かに写真くらいはカメラさえあれば友達同士でも撮れる。私からお願いしたのは結構勇気が要るものだったのだけど、周りから見たら、だからどうした、といったレベルの話だ。 「お前のそういうとこは父親似だな。こと恋愛に関しては、母親の方がよっぽどリードして、お前の父親を操ってたに近い。ああ、勘違いするなよ。服従の呪文やら惚れ薬やらは使ってない。ただなんつーか、カンナギの前でわざと隙を見せたり、どういう台詞や行動を求めてるのかを伝えるのが上手かった」 シリウスは、私の両親のことを知っていて、そしてその馴れ初めなんかも知っているようだった。自分の知らない両親のことに興味があって、いろいろと話してもらう。 「私の両親と仲が良かったんですか?」 「いや、全然。闇払いになってから付き合いが出来たが、それまではあんまり喋ったことないな。ただ、7年もホグワーツにいれば、ある程度の顔と名前は覚えるだろ」 「それは、まあ」 私の両親はシリウスの一つ上の学年だ。6年間同じ学校に居れば、確かにある程度顔も名前も覚えるし、一言二言くらいは会話をする機会がある。 「――よし、来年のうちに1回でも自分からキスに誘ってみろよ。やり方はさっき伝えただろ。簡単だ。手を握って目をつぶるだけ。1歳でもできる」 「え、ちょっと待って。なんでそんなこと、あなたに」 「人生の先輩の言うことは聞くもんだ。悪いことは起きない」 そう言ってシリウスは、ぐっとウイスキーを飲み干して、席を立った。皿はもう空っぽだ。私も自分のかぼちゃジュースを飲み干して、夕飯の片づけをした。ああもう、ジョージとのことにまで口を出してくるなんて。 来週久しぶりに会えるかもしれないというだけで、楽しみでいっぱいなのに。色恋沙汰は心臓がいくらあっても足りない。慣れる日なんて、いつ来るのかわからない。もし仮に慣れたとしても、きっとそれ以上のことが起きるような、そんな気がしてしまう。 2019.1.13 三笠 |