と調査隊が出掛けるのを見送ってしまうと、初日である今日はひたすら暇だった。明日以降は洗濯や掃除があるからもうちょっと忙しいけど、それでも暇な時間は多い。 俺とジョージは持ってきた悪戯道具の開発でもするかとソファに座って相談をしていたが、そこにセドリック・ディゴリーがやってきた。 思わず口を噤んでそいつを見上げる。 「やあ、邪魔したかな」 「いや、何か用か?」 「2人のどっちかがと付き合ってるのかどうか聞きたくて」 予想外の言葉に、一瞬空気が止まる。なんだこれ。こいつ、こういうやつだったっけ。そっと隣のジョージを見ると、思い切り眉を顰めていた。うわ、機嫌悪っ。 目の前のソファに腰掛けるディゴリーを眺めながら、こいつさっさとどっか行ってくれねえかな、と考えた。その願いは叶いそうにないけど。 「付き合ってるよ」 「…ああ、そうなんだ」 「だから何だよ。もしかして俺からを奪おうとか思ってるならお生憎様。別れる気は一切ないよ」 「別れさせる気もないよ。が選んだのならそれはきっと正解だからね」 ジョージはさらに顔を顰めた。長年一緒にいるが、ここまで不快そうなのは珍しい。じゃあなんだよ、とつぶやくのが聞こえた。 「幸せにしてくれるなら、文句はないんだ。でも、傷つけるんなら話は別。ウィーズリーは女で遊ぶタイプの人間じゃないとは思うけど、一応確認しておこうと思ってさ」 「遊びならやめろって?」 「ああ。でも、その様子だと遊びじゃないみたいだな」 良かった、とディゴリーは言った。なんだこいつ、好きな女の彼氏に向かってそんなことをいえるのか。 「付き合ってないなら、宣戦布告をするつもりだったんだ」 「じゃ、タイミングが悪かったな。もう付き合ってるから」 「ああ。諦めて他の女の子を見ることにするよ」 暫くはちょっと引きずると思うけどさ。ディゴリーのその言葉を、ジョージは聞いていないかのように振舞った。座っていたソファから立ち上がり、無言で部屋から出て行こうとするから俺もそれについていく。が、出て行く寸前、ドアのところでジョージが止まった。そして、ちょっと時間がかかって、振り返った。 「…あのさ、」 「ん?」 「お前、のどこが好きだったんだ?」 ディゴリーは少し目を見開いて、驚いたような顔をした。でもすぐに口を開いて答える。見間違いかもしれないが、少し嬉しそうにも見えた。何でかは知らないけど。 「危なっかしいところかな」 「…は?」 「ってさ、結構鈍いだろ。なんかつい見ちゃってさ、いつの間にか好きになってた」 俺にはまったく理解できないけど、ジョージには理解できたんだろうか。ジョージは口を頑なに一文字に結んでいたが、それを聞いてふっと緩んだ。 「…箒に乗れないとか、学校の動く階段に上手く対応できないとか?」 「! ああ、慌ててると時々壁にぶつかって、しかもその壁に謝っちゃったりな」 「わかる。わかるけど、それだけじゃない」 納得したかのようにジョージは小さくうなずいた。そしてもう聞くことはないのかまたくるりと背中を向けて部屋を出ようとした。しかし、ディゴリーがそれを遮るように大声を出した。 「じゃあ、君はどうなんだ?」 「は?」 「の、どこが好きなんだ?」 ディゴリーを振り返って、ジョージは眉を顰めた。そして やっぱりまた背を向けた。 「…教えてやるわけねえだろ」 小さくつぶやいた返事はディゴリーには聞こえただろうか。いや、聞こえているんだろう。ディゴリーも不満げにしかめっ面をしていた。 「これ以上惚れられたら困る」 ぼそりと付け足した言葉に、ディゴリーの顔は一変した。ぽかんと口を開け、部屋を出て行くジョージの背中を眺めていた。 「…案外、余裕はないみたいだね?」 「まあ、付き合ってまだ日は浅いしな」 「ふうん」 納得したのかしてないのかわからない返事をして、ディゴリーは口を閉じた。まさか奪おうなんて考えてないよな、と一瞬背中がひやりとしたが、すぐにジョージを追うために足を進めた。俺が口出すことじゃないし。 (まあ一応あとでに一言伝えようかな、なんて思った) 2012.8.29 三笠 |