summer vacation


夜の21時を過ぎると私はいつも先に部屋に戻る。
ここで同居する誰よりも早い時間だけど、家だといつもこの時間だから、つい此処でもその生活を続けている。
夕飯は18時〜19時。終わって片づけや次の日の準備をしているとすぐ眠る時間になってしまう。だから私は、此処に着いてからジョージと2人きりで話すことはほとんどなかった。


「ふあ」
、眠そうだけど、今日はまだ部屋に帰らないのかい?」


リビングのソファに座っていたら、ディゴリーさんにそんな声をかけられた。その隣ではセドリックがくすくす笑いを浮かべていて、調査隊の何人かは微笑ましそうに笑っていた。
慌てて欠伸をしていた口元を押さえて、すみません、と呟いた。


「じゃあ、今日もお先に失礼します」
「ああ。おやすみ」


口々におやすみと声をかけて、私は自分の部屋のほうへと歩いていく。すると途中でお風呂上りのフレッドくんに出会った。


「お、。寝る時間か?」
「フレッドくん。あ、ジョージは一緒じゃないの?」
「ああ。今風呂入ってる。どうする? 多分部屋に直帰だけど、こっちで待ってる?」
「あ、えと…、迷惑でないなら」
「ん。いいよ、おいで」


フレッドくんについて、階段を上がる。
2人の部屋はこの数日のうちに何故か散らかっており、いろんな発明品があちこちに置いてあった。


「これ、なに?」
「あんま触らないほうがいいぜ。そっちは騙し杖。あといろいろ開発中のものがいろいろだな」


私は指定されたほうのベッドに腰掛けた。多分こちらがジョージのベッドなんだろう。見慣れた鞄が置いてあった。
フレッドくんはいくつか瓶の蓋を閉めて鞄にしまい始めた。


「なあ、ってジョージのこと好きなんだよな?」
「えっ、あ、…うん、そうだよ」
「で、セドリック・ディゴリーは?」


まるで先日列車を降りたところでの会話みたいだ。
私は首を横に振った。


「友達だよ。恋愛感情じゃない」
「ならいいけど。ほだされないように気をつけろよ」
「ほっほだされないよ。そんな余裕ないってば」
「余裕?」
「…今はジョージ以外は見られないっていうか」


ぼそぼそと言うと、フレッドはちょっときょとんとして、それからくすくすと笑っていた。


「それ、ジョージに言ってやれよ」
「エ、絶対言えない」
「なんで。喜ぶぜ」
「喜ぶ顔は見たいけど、…無理!やっぱりだめ、言えない」


呆れたような顔をして、はー?と不満げな声が聞こえた。


「俺に言えてジョージには言えないのかよ」
「…フレッドくんは別に好きじゃないから」
「ばかじゃねえの、好きなやつに言えよ。俺が聞いたって惚気にしか聞こえないし、いらつくだけじゃねえか」
「う…それはそうかもしれない」


苛立っていたのなら悪いことしたな。
でもフレッドくんはいつも正直で、感情をすぐ顔に出すから呆れているだけだと思ってた。


「そうかもじゃなくて、実際そうだっつーの。あ、そういやさ、キスとかその先とかする予定あんの? あんま焦らしてやるのは可哀相だからさ、早めにから誘ってみてよ」
「ななななに言ってるの!? そんなの、で、できるわけが」
「好きならできるだろ」


あっけらかんと言われて、開いた口がふさがらない。顔が真っ赤だ。ハグだって緊張するのにその先なんて今は無理だとしか思えない。


「すぐは無理!」
「はー!? しろってバカ」
「ば、バカじゃないよ」
「じゃあ臆病でドジで間抜けで口下手だな」
「ひっどい! フレッドくんだって無神経で、不真面目で、ええと、あと…」
「なに、2つしか浮かばねえの? やっぱバカじゃん」
「違うってば! フレッドのばか」
「お、なに、呼び捨て初めてじゃね?」


思わず呼び捨てにしたら、フレッドはにやにやと笑みを浮かべて目ざとく聞いてきた。気にしなくていいのに。


「よそよそしく、くん付けするほどの人じゃないなって思って!」
「じゃあ、俺もって呼ぼう。セドリックもそう呼んでたし」
「え、え? 別にいいけど…」


名前で呼ぶのは構わないけど、どうしたのその顔。
先ほどまでの顔と違って、なんだか少し楽しそうに見えた。
そんなときに、ガチャリ、と部屋のドアが開いた。


「あれ」
「あ」
「おう。おせえよ、ジョージ」


ジョージが入ってきた。Tシャツに短いパンツ、塗れた髪から水滴が零れて、それを肩にかけたタオルが吸う。


「え…、なんでがここにいるの?」



2012.8.20 三笠