summer vacation


フレッドが席を外して、久しぶりの2人きり。
けれど、なんだか目を逸らされているようで、こちらを見ようともしない。ガシガシと濡れた髪をタオルで拭いている背中を眺めながら、恐る恐る声をかける。


「…あの、ジョージ?」
「なに」
「えと、もしかして機嫌悪いのかな…って思って」


いつもより少し低い声。タオルを肩にかけたまま、ジョージは振り返った。
その目はやはりいつもより鋭くて、口元はきゅっと結んでいた。


「なん、でも、ない、っと」


喋り方と同じリズムで歩いて、私の向かい側に座った。
私はジョージといるときはいつだって緊張したりどきどきしたり落ち着かないけど、今日はそれに加えて少しの恐怖を感じていた。私、なにか怒らせるようなことしたっけ。


、いつもはもう寝てる時間だろ。寝なくていいの?」
「う、うん、ちょっとなら」
「…フレッドと居るときのほうがリラックスしてるみたいだったな」


思わず眉を顰めた。何気ないように言うジョージも眉を顰めていて、やっぱり機嫌が悪いようだと確信した。しかも今さらりと言ったフレッドのことで、だ。理由もわかって、私は恐る恐る口を開いた。


「怒ってる…よね」
「…なんでだと思う?」
「フレッドと一緒にいたから」


違う?と聞くと、正解、と返ってきた。
フレッドには恋をしていないから一緒にいてもなんにも感じないけど、だからといってジョージにそれが伝わるかっていうとそうではなくて。
逆の立場だったら私もきっと同じように思うから、すぐにわかった。


「すぐ俺が来るのが分かってたとしてもさ。男と2人きりになるのはやめてほしいって…わかる?」
「わかる、よ。あの、ごめん」
「謝らせたいわけじゃないから。わかってくれればそれでいい」


へらりと笑ってジョージは立ち上がった。それを目で追っていると、ジョージは私のすぐ隣に座った。とすん、と柔らかい布団に腰かけると、木製のベッドが小さく軋んだ。


「ちょっと抱きしめていい? そしたら機嫌直るから」
「う、うえっ、え、い、今…?」
「今。ダメ?」
「え、あ、だ、だめじゃない…」


抱きしめられたのはまだ数えられるほど。
緊張するのは当然。既に顔が真っ赤になって、目をあわせられないほどどきどきしている。
すると、その様子を見てジョージはくつくつと笑って、それから大げさなくらい大きく腕を広げてそっと私を抱きしめた。私はぎこちなくジョージの背中に手を伸ばした。
服越しに感じる体温が熱いくらい火照っていた。


「…そういえば、なんでフレッドのこと呼び捨てにしてるの? ディゴリーのこともだよな? 俺のときは時間かかったのに」
「う…、あの、えっと…、なんとなく…かな」
「………ちゃんと話してくれるまで離さないよ」
「えっええ!?」


それは困る!と思いながら、ぼそぼそと経緯を話した。フレッドに散々ばかにされたことを話したら肩を震わして笑っていたけど、始終不満げなのは伝わってきた。
機嫌よくなってほしいなあと思って、どきどきしながらしがみつく腕に力を入れて体を寄せて、ふっと違和感を感じた。あれ、わたし、今、


「ひっ!」
「うわ」


思わず体をジョージから離して、そして感覚を探るとやっぱりそうだった。もう寝るだけだったから下着をつけていなかった。だからつまり、あまりに膨らみのない私の胸を押し付けていたということで、もしかしたらそれがばれたかもしれないということで。羞恥心で顔に熱が集まった。
右腕で胸を覆うようにすると、ささやかすぎる柔らかさが伝わってきた。ああやっぱり。


「ど、どうかした…?」
「わっ、わわわたし、もう寝る、から、そ、その、ごめん、あの、お、おやすみっ」
「えっ、ちょ、なに」


逃げるように立ち上がってばたばたとドアの外へと出る。ありえない失態だ。真っ赤な顔を押さえながら、自室へと急いで逃げ込んだ。
突然逃げられたジョージの気持ちを考えることもできず、ただただ恥ずかしさで顔をベッドに押し付けた。



(もうむり恥ずかしさでしにそう…)

2012.8.28 三笠