朝食が終わって、調査隊の3人を送り出して。 それから一息ついていたジョージをこっそりと呼び出した。(こっそり誘ったつもりだけど、たぶんフレッドにもセドリックにも気づかれてる) 自分の部屋に入って、ジョージはベッドに、私はその正面の椅子に腰掛けた。 「……えと、昨日の夜のことなんだけど」 「俺、逃げられるようなことした記憶ないんだけど」 「そ、それはその…完全に私の失態だから」 顔を合わすのも恥ずかしい。思い出すのも恥ずかしい。 不機嫌そうなジョージの顔は昨日と一緒。 「あの、だ、抱きついたとき、に、ね」 「うん?」 「寝る前だったから、その、し、下着、つけて、なくって…その、」 「……は?」 顔が真っ赤になって、俯いた。 私とは逆に、顔を上げたジョージがこちらを見ているのがわかる。でも、私の言葉を理解したのか、少し顔を赤らめて、そっぽを向いた。 「それに、気づいて…、は、恥ずかしくなって、それで、その……、ご、ごめん、ね」 「……い、いや、えっと…、こっちこそ…拗ねててごめん」 お互い真っ赤になって俯いた。 逃げた理由は理解してもらえたみたいだけど、なんとも気まずい。恥ずかしい。 「い、今は、つけてる?」 「あっ、当たり前だよ…っ ちゃんとつけてる」 「じゃあ、昨日のやり直ししよう」 ジョージがはにかんだ笑みで、自分の隣を軽くたたいた。ここにおいでってことだろう。一気に、心臓がきゅーっと縮こまったような気がしてちょっと苦しい。けど、勇気を出してゆっくりジョージの横に座った。 「抱きしめてもいい?」 「…い、いい、よ」 昨日と同じように、大げさなくらい腕を大きく広げて、ゆっくりと私に触れた。少しだけ俯いて、背中を押されるままに、ジョージの胸に顔を寄せた。 「ハグに慣れるのはいつだろうなあ」 「う…、そ、そのうち……」 「時間かかってもいいよ。新鮮でかわいい」 お願いだから緩急つけて甘い言葉言うのやめて、って言いたくなって、でも真っ赤になった顔で言っても効果なんてなさそうで、結局何も言わずに俯いた顔をまた少し傾けた。 「いつか、のほうから抱きついてきてほしいものだけど」 「ら、来年までには……」 「えっ、そんなにかかるの?」 「えっ? え?」 驚いたように、もたれかかっていた私の肩に両手がかかり、少し離された。 思わず顔を上げて目が合って、そしてすぐに逸らした。 「か、かからないことを祈ってて」 「えええ、全力で祈るよそれ! そこまで待てるかちょっと不安あるっていうか、……アー、いや、まず無理だよな…、を目の前にしてずっとこんなに優しくなんか……、」 「……あの、もしかして今って、が、我慢とかしてるの…?」 「アー、まあ、多少は。驚かさないようにとか怖がらせないようにとか、考えるようには…してる、かも」 気まずそうに顔を背けながらジョージは言う。 そんなことを考えていたんだ、と思いながら、気遣ってくれているのが嬉しくて、少し笑みがこぼれた。それを隠すように少しだけ俯いた。 「…うれし」 「! 煽るのやめてくれたら俺もうれしい」 「えっ、煽ってないよ」 「ア、いや、なんかもう…一緒にいるだけで煽られてるっていうか」 両肩に乗っていたままの手が離れた。 ほんのり色づいたジョージの顔をじっと見つめていたら、「見るなよ」なんて拗ねたような口調で怒られた。 「あんまり自覚ないようならキスしちゃうよ」 真っ赤になるのは私の番で、動揺して何度も瞬きしながらまた俯いた。 髪を梳くように私の輪郭を撫で、俯いた顔を少し上げさせられた。目が合って、このままキスしちゃうんじゃないかって思って、でもそれでもいいんじゃないかって、ぐるぐるといろんなことが頭をよぎった。 「、」 「っ、ジョ、」 ゆっくりと近づいてきて、どうしたらいいかわかんなくなって、動転して、俯こうとして俯けなくて、固まっていた手で押し返そうとして、―――鼻と鼻が触れそうなくらいの距離にびっくりした。意味のある言葉が口から出てこない。熱い呼吸、触れた左手。待って、と言おうとして、声が出なかった。目の前の顔が、くすりと、笑って、 え? 「ふ、くく…っ」 「え…、な、あの、え?」 「ごめん、ちょっとからかっただけ。それとも、本当にキスしたかった?」 笑い出してすぐに、ジョージは元の位置まで戻った。 くつくつと笑いながら、触れていた手で私の頭を撫でる。 ほっとしたのがまず第一で、真っ赤になったままの顔で、口元に手を当てて小さく息をついた。 「折角だし、外に遊びに行く?」 「う、うん…」 「フレッドたちも誘ってさ。今日は一日フリーだろ? たまには遊ばないとな」 ジョージが先に立ち上がって、差し出してきた手に手を乗せて引っ張ってもらう。 立ち上がると手が離れて、ゆっくり歩いて部屋を出た。 2012.9.5 三笠 |