#


「お!お前、さっきの島から入ってきたんだろ?こっち来いよ!一緒に話そうぜ」
「そういや名前すら聞いてねえな。お前、なんていう奴なんだ?」


ちょっと気後れしながらも部屋を出て外に出たと思った、ら。
緑と白のストライプのシャツを着た太っちょの男の人と、やけに鼻の長いドレッドヘアの男の人に声をかけられた。他にも何人かが座り込んでいて手招きされる。


「な、なにしてるの」
「何って見りゃわかるだろ。」
「………駄弁ってるようにしか」
「その通りだ!」


口の端をにやりと引き上げて、彼らは頷いた。
そんなに堂々と言うことでもないと思いながら、私は彼らの方へ足を進める。顔と名前くらいは覚えないとなあ、なんて


「そんな威張って言うことではないと思うわ」
「まあそうかもしれないが、わざわざつまらなそうに言うことでもないだろ?」


そうかもしれないけどと呟くと、まあ座れと返された。その顔に浮かんでいたのはただの好奇心。新入りについてちょっぴり気になる、といった様子だろうか。
私はそれに逆らわず、彼らの輪に加わった。


「で、名前は?」
「武器は?」
「えっ、戦闘員なのか? 俺ァてっきり戦えねェとばかり…」
「いや俺は見たぜ。1番最初、でっけえ木の上から銃でお頭を狙ってたよな?」
「おっ、銃か!いいねえ、今度腕前を見せてもらいてェなあ」


勝手にがやがやと話し出して、喋る隙が見つからない。
そのうち人が集まってきて、最初は5人くらいだったのが、少し経つと20人近くの大所帯へと変わっていた。
それぞれが勝手に喋って勝手に騒いでいて、隣の人の声も聴こえないくらい。


「お!なんだお前等、なに騒いでんだ?」
「お頭!」
「あ、。お前もうこいつらと馴染んでンのか。今日の夕飯ンときにでも紹介するつもりだったが、手間が省けたな」


甲板でがやがやと騒がしかったためか、船の中でも1番高い位置の部屋である、船長室から赤髪が顔を出した。そしてそのまま柵を乗り越えて、飛び降りてきた。
いつも被っている帽子が飛んでいきそうになったけれど、赤髪は危なげなく右手で押さえて着地した。


「俺が世界中回って集めた仲間だ。まァ見てのとおりバカばっかりだが楽しい奴等だ。お前もきっと気に入るぞ」
「ぶはっはっは違いねェ!」
「お頭ァ、バカはひでェっすよ!」
「あァ?実際バカばっかじゃねーか」


騒がしい笑いと言い合いが目の前で繰り返される。
考えたことも無かった。私がこんな場所にいるなんて。夢に見ることすら拒んでいた。私が誰かに、無条件に受け入れられる日がくるなんて。

しばらく唖然としていたけれど、次第にこみあげてきたのは、笑い。何年ぶりかの笑い。押さえるのなんて初めてだ。どうしよう止まらない。


「ふ、っ」


くつくつとこみ上げてくる笑いを隠すこともできず、思わず声に出た。これだけ周りが騒がしければだれも気にしないだろう。

笑ったり話したり呆れたり、その日はとにかく騒がしい日だった。
こんなにたくさんの人に囲まれたことなんてなかった。解いたことのなかった警戒が、必要ないと感じてしまった。
たくさんの人の中心で笑う赤髪に、頼ってもいいと思ってしまった。


おいしい食事に楽しい会話。
初めてづくしの一日に興奮は冷めず、みんなが寝静まった夜、一人でぼんやり月を見上げた。




2012.2.7 三笠