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「島が見えたぞーーーーー!!!」


3日ぶりの島。船酔いこそ無かったものの、慣れない船の上。騒がしい船員たち。急激な環境の変化に、私はすっかり疲れ切っていた。
そろそろ一人でゆっくり落ち着きたい、なんて思うのはこの環境では仕方が無いことだろう。
そんな頃、船中に響いたそんな声。太陽がさんさんと輝く午前11時。私は食堂でオレンジジュースを飲みながらほっと息をついた。


「…3日ぶりの地面」
「おまえは俺と買い物だからな」


後ろからいきなり聞こえてきた声に驚きながら振り返る。
赤髪はいつも通りの適当な格好に麦わら帽子。手に持っているのは、ええと、コーヒー?


「買い物って、なに買うの?」
「あー、どうすっかな。とりあえず数日分の服と布団と、あと…なんだろうな。お前が必要だと思うもの」
「…それ、もしかして全部私のもの?」


おう、と頷くシャンクス。
有り難いような申し訳ないような申し出に、どう反応して良いのか困る。
私はお金を持っていないし、特に換金できそうなものもない。


「私、お金持ってないけど」
「俺が持ってるから心配ない。この島を通り過ぎると、10日くらい島がないらしくてな。ちょっと買いすぎなくらい買っておいたほうがいい」


そう言ってシャンクスは、すごく不味そうな顔をしてコーヒーを飲み干した。いつもお酒ばかり飲んでいたから、すごく違和感。


「まあ必要なもの適当にメモしておけ。ベッドは船大工が資材買って作るらしいから、布団だけ買えばいい。女はいろいろ入り用なんだろ? 金の心配は要らないから、あの部屋に入る量なら好きなだけ買っていい。あ、下着は多めに買っておけよ。最低1週間分な」


テキパキとそんなことを言ったかと思えば、コップを置いてさっさと外へ出てしまった。
島に着くなら、船長らしくなにかやることがあるのだろうか。そう考えながら、私もジュースを飲み干し、シャンクスの使っていたコップと一緒に片付けておいた。

そして、シャンクスの置いていったメモを見つめた。
必要なものってなんだろう。服と、下着と、生理用品は多めに買いたい。
これシャンクスと一緒に買いに行かないといけないのかなあと。なんだか少し気まずいだろうなあと思いながら、メモにペンを滑らせた。




「じゃあ見張り番と買い出し組以外は自由!あー、まァなんもなければ最低3日は滞在するだろうけど、まだ決めてねェからな。決まったらどっか書いとくから適当に見てくれ」


何十人もの大きな海賊ともなればこそか。ちゃんと役割分担がされているようで、いつもの様子からは想像できないくらいテキパキと上陸の準備をしている。
私はメモを握りしめたまま唖然としてその様子を眺めていた。


。おまえ、この島来たことあるのか?」
「えっ、あ、わかんない。前の島に着く前は新世界のほうから船で移動してきたらしいから、そのとき来たかもしれないけど、…正直、覚えてない」
「そうか。じゃあほぼ初めての上陸だな。楽しめよ」


そんな会話して立ち去る船員もいて、なんだか今更ながら私の気分は少しずつ浮き足立っていった。
そういえば、あの島から出るのは記憶にある限り初めてだ。

買い物も知らない土地も、母以外の誰かと歩くのも、ぜんぶぜんぶ初めて。
少しだけ胸が熱くなっていた。





2012.4.30 三笠