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上陸作業中、副船長に引き連れられ、備品庫に来ていた。
大工道具を始め、掃除道具や生活雑貨など、多くの物で溢れていた。
帳簿を渡され、「×がついているものは捨てるから出しといてくれ」なんて一言言って自分も黙々と作業に移っていく。
私も同じように備品に向き合った。


「このブラシ、随分くたびれてるけどどうしたの」
「あいつらが掃除ついでにふざけて遊んでるからだろ」
「…まるで子供ね」
「船長があんなんだからな」


でもお前が一番年下だろうと副船長は言った。確信はなかったけれどそうだと思っていた。(だってみんなお酒飲んでるし)
実年齢と精神年齢は違うわよ、なんて言い返して、少しだけ空しくなってみたりした。


「やっぱりシャンクスの影響が大きいんでしょうね。上があんなんだからみんなふざけちゃうのよ」
「まあお前が大人びてるのもあるだろうけどな。…そういえばお前、あの島でどうやって暮らしてたんだ?」
「え」


自分のことを聴かれるなんて思っていなかったからびっくりして副船長のほうを見る。
変わらず黙々と作業をしながらこちらなんて気にせずに手と口を動かしていた。


「村のほうとの交流は無さそうだったし、服とかいろいろどうしてたのかと思ってな」
「ああ、うん。村に害のある人を近づけさせないことを条件にね、食糧とか衣料品とか生活雑貨とか分けてもらってたの。初めからその条件であの場所に住んでいいことになってて。私が住む前は海賊に何度も荒らされてたらしいから、向こうにとってもいい取引だったんじゃないの」


嫌われていたけど、とつぶやくと、副船長はやはりこちらを見ずに大きな手で私の頭を荒く撫でた。もしかして慰められてるのかなあとぼんやり考えた。


「ここにはお前を嫌うやつなんて一人もいないだろうさ」
「なんでそんなこと言えるの」
「おかしな話だが、あの人が船に乗せたやつは一人残らずうちの空気に染まっちまうんだ。いい意味でな。何故か人間関係で困ることは一度もなかった。この大人数でな。ちなみに敵船含めて、だ」


そう言われて、なんだかそれが事実だと実感できた。確かにあの人にはなにやら不思議な力があって、それにみんな惹かれてしまうんだ。自然と。あの笑顔に、声に。ついていきたくなる。心がほぐれて嫌な気持ちがすっとんでしまう。


「だからこの船にいる限り安心してくれていい。今日もあの人についていけば大丈夫だろ。ああでも、嫌なことはちゃんと嫌だって言えよ。酒を勧められても飲むな。突っ返せ」
「…酒?」
「昼間から未成年連れて飲むような真似はしないだろうが、あの人がなにしでかすかは全く分からないからな。用心はしとけ」


そう言って副船長は立ち上がった。大きな身体が小さな倉庫で窮屈そうに見えた。
木の箱に廃棄物を入れているようで、私も同じように、取り出した廃棄物をその箱に入れた。これで全部だ。


「ちなみに、あの人が何かおかしなことをし始めたら、私は止めたほうがいいの?」


私を連れてきたように、シャンクスの行動が突拍子もないのは今に始まったことではないらしい。それはここ数日この船にいただけで分かった。
船に乗っていても予想のつかないことを時折やりだすらしいから、町に降りても同じだろう。…いや、むしろ普段と違う環境のほうがおかしなことをやりだす気がする。
そう思って言ったけれど、副船長は苦笑しながら首をかしげた。


「止められるものなら止めてみればいいさ。俺でも苦労するのに、もしもお前にできるなら副船長を譲ってもいい」
「それは要らないわ。…でも、一応努力はしてみる」
「期待しておく」


喉の奥で副船長は小さく笑った。そして廃棄物を入れた箱を軽々持ち上げ、ドアを足で蹴り開けた。


「あとはこれを運ぶだけだから、お前は好きにしていてくれていい」
「ん、了解」
、助かった。ありがとうな」


最後にそう言って、副船長はその部屋から出て行った。私もそれに続きつつ、ちゃんとお礼を言うんだなあ、なんて多分一般的には当たり前のことを思っていた。


(手伝うのは当然のことだと思ってた。わざわざお礼を言われることをしたなんて思ってなかった)
(お礼を言われることも、言うことも、なんだかすごくすごくこそばゆい)




2012.5.29 三笠