連れていかれた飲み屋で、ひたすらお酒を煽るシャンクスたち。 ああもう何やってるやら。 子供みたいって呟いたら、「そんなこと言うお前のほうがよっぽど子供だ」って副船長に笑われた。 「もう23時過ぎてるのに、なんでみんなこんなに元気なの」 「なんだ、疲れたのか?」 「いつもなら寝てる時間だから、眠いの」 「やっぱりお前はまだまだガキだな」 大人の時間はこれからだぜって、なにを恰好つけているんだか。 さっさと船に戻って眠ろうかなって思って、席を立つ。副船長に一言告げると、「送っていくか?」って言われたけど、軽く断って店を出た。 冷たい空気と夜空が、別の世界みたいだった。 船までは、おそらく歩いて10分程度。 薄着で来てしまったから、のんびり歩くと体が冷えてしまう。 とっとっと、と駆け足で夜道を抜ける。 ふと、後ろを振り返った。 先ほどまでいた飲み屋の明かりが見える。その中で騒いでいるみんなの声も聞こえる。 なんだか、今でも、夢を見ているみたいな気分だった。 見たことのなかったものを見て、そしてあんなに明るい場所にいた。 一人になる時間は減って、騒がしい日々が続いている。 久しく感じていなかったから、忘れていた。嬉しいとか楽しいとか、そういった感情を思い出した。 背中を向けて、船の方へとまた駆け出した。 けれど、途中で路地裏に入る。 昼間に散策したおかげで、この町の地理は頭に入っている。一つ二つ角を曲がって、表には出てこない店の前をいくつも通り過ぎる。そして、一つの店の前にたどり着いた。【情報屋・ウィキッド】 古びた扉を押して、店の中に入る。 煙草の煙と強いお酒の匂いでいっぱいで、不快感で眉をひそめた。壁にはいくつもの手配書が張られている。 奥に、一人の男の人がいた。 「…欲しいものと対価は?」 「カラス、と呼ばれている海賊について聞きたいの」 「ああ、あのチンピラたちか。大した値はついてねーぞ」 「いいの。対価はこれ。100万ベリーあるわ。これでどこまで聞ける?」 母の残したお金の半分ほどの額だった。島ではお金を使うことなんてなかったから、わたしはお金を使ったことがなかった。これがどれだけの価値があるのかわからない。 「それじゃあお釣りが出ちまうくらいさ。そうだな、じゃあ始めから話してやろう」 そうして情報屋は語った。過去の犯歴や海賊団の人数、能力、そして居場所。思っていたよりも近く、3つほど先の島にいるようだった。10年ほど前に大儲けをして、一つの島に留まるようになったそうだ。海軍と裏でつながっており、悠々と暮らしているらしい。 「なあお嬢ちゃん、アンタ、カラスに恨みでもあんのかい?」 「こちらから情報を出すつもりはないわ」 「俺は昔、アンタに似た女を見たことがあるんだよ。アンタと同じ目の色、髪の色。アンタよりちょいと年は上だったか、そりゃあベッピンさんで、まだ小さい娘を連れていたな」 メモとお金をしまっている間、情報屋は話し続けていた。これも料金のうちなんだろうか。 「この近くで、海軍に気づかれず、娘と二人で暮らしていける場所はないかって言われてな。ある島を教えたんだ」 知っていた。この人が私の住んでいたあの島のことを教えたこと。だからここに来た。15年ほど前、母がここに来たように。 「そして10年くらい前に、カラスからとある一族の生き残りの場所を聞かれて、その島を教えたことがある…。お嬢ちゃん、俺を恨むかい?」 母を殺した奴らに、情報を売ったのはこの人だった。 そのことを考えなかったわけではない。だって、他にあの場所を知っている人などいなかったから。表面上は平常心で、でも心中はあまり穏やかではなかった。この人が情報を売らなければと過ぎったけれど、でも母を殺したのは、この人ではない。そう何度も念じて、手の震えを抑えた。 「…なんのことだかわからないわ」 「情報屋は鼻が利くのさ」 鞄にすべてしまい込んで、もうこの店を出てしまおうと背を向けた。 「赤髪は大物になるだろうさ。そんな男についていくお嬢ちゃんのことは世界中が知ることになる。…俺はもうお嬢ちゃんの情報を売ることはねえだろうな」 そんな声を背中で聞いて、冷たい外へ出た。 これで、必要な情報は手に入った。このままシャンクスの船に乗っていれば、いずれカラスに出会うことになるだろう。そうしたら、実行すればいい。やれればいいと思っていたことが、現実になりそうだ。 2015/12/13 三笠 |