「なあ、なに本読んでんだよ」 「本読んでたらいけない?」 「…いけなくはねェけど」 けど、俺と二人きりの部屋ですることじゃないだろ。 そう呟いても、斜め前に座るそいつは振り返りもしない。少し意地になって、腰に腕をまわして俺の脚の間に引き寄せて抱きしめる。少し身じろぎはしたけれど、それでも振り返ることはしなかった。 「お前、今日何の日か知ってるだろ」 「知ってる。シャンクスの誕生日でしょ」 昨夜は前夜祭、今夜ももちろん宴だろう。それに参加しているんだから、知らないはずはない。 は即答しつつも、本から目を離さない。つうか、なんの本読んでんだ? アー、交差方位法?重視線?…だめだ。意味がわからん。 俺はせめて集中させてなるものかと、の首筋に顔をうずめた。 「お前、俺に何か言うことは?」 「ああ、うん。誕生日おめでとう」 「…せめて俺の顔見て言えよ」 「んー…? あー、そうね。うんうん」 少し黄ばんだページをまた1枚めくる。 なおざりな返答。どうでもよさそうな態度。 ちくしょー…。こいつ、完全に本に集中してやがる。いっそ俺のことしか考えられないようにしてやるか…。でも絶対機嫌悪くなるし、余計祝ってもらえなくなるのも嫌なんだよな…。畜生。 「もうちょっと早く言ってくれればよかったのに」 「………あ?」 ぼそっと言った言葉は、聞こえたには聞こえたが、なにについて言っているのか分からなかった。 顔を上げて見ると、少し頬を膨らまし、不満げな表情を浮かべていた。なにが不満なんだか。俺のがよっぽど不満になっていい立場だろうが。 「もうちょっと早く言ってくれれば、ちゃんと準備したのに、って話」 そう付け足されてようやく、俺の誕生日をに伝えていなかったことに気づいた。古株の連中は大体みんな知っているし、あえて伝える必要を感じなかっただけだが、それがにとっては不機嫌の種だったらしい。 俺に当たるのはどうかと思うが、不機嫌の理由が「俺の誕生日をちゃんと祝いたかったのに祝えなかった」ことだとしたら、悪くはない。 くすりと笑みがこぼれて、の腰をぎゅっと抱きなおす。 「…なんだ、拗ねてんのか?」 「拗ねてない」 「いや、拗ねてんだろ。ちゃんと準備できなかったことがショックだったのか?」 「う、うるさいな。べっつに、そんなこと言ってないし。拗ねてないしショックでもないもん」 「はいはい。俺はそんなことでいちいち拗ねたりショック受けたりしてくれると嬉しいけどな」 首筋にキスを落とすと、肩がびくりと震えた。 耳まで真っ赤になって唇をぎゅっと噛みしめているのがわかって、どんどん機嫌が良くなる。感じているのならそのまま感じてくれればいい。本なんか読ませてやらない。俺の誕生日なんだから、俺のことだけ考えて、俺に溺れてくれればいい。準備なんて要らない。そのまま全部俺に委ねてくれれば、それだけで、もう。 「俺はお前がいてくれるだけでいいんだよ」 囁いた言葉とともに、耳にキスを落とした。縮こまった肩、小さく丸めた身体。小さく小さく、「たんじょうびおめでとう」と聴こえた。 それだけで俺の気分は高揚しちまうんだから、俺にとってのこいつはかけがえない存在だってわかる。 形だけのプレゼントなんて要らなかった。そのままぐるりと押し倒して、の唇に口づけた。 世界にただ一人のお前 2012.3.16 三笠 お頭、お誕生日おめでとうございます! お頭視点の夢は初めてかもしれない…! 1週間遅れでごめんなさい!けど祝う気持ちはいっぱいです! |