なにもしなくてもいいけれど、触れてる瞬間はやはり心地よい



「ねえシャンクス」


暑いくらいの日差しの下で、大の字になって眠っているシャンクスの隣に膝を抱えて座って、声をかけた。
眩しいのか、麦藁帽子を顔に被せていて、表情が分からない。


「…起きてる?」
「寝てた」
「ああ、そう」


麦藁帽子を少しズラして、見えた顔は、眩しそうに目を細めていた。


「まだ眠いの?」
「なんだよ、さっきから」


何か言いたいことがあったわけではない。
声をかけた理由なんて最初から存在しなかった。
隣に座った理由は、ただ隣にいたかっただけ。…なんて絶対に言えないけど。


「眠くはねェな」
「そう」


ふふ、と自然と笑みが零れて、それを見てシャンクスは解せないとでも思っているのか怪訝そうに眉を顰めた。
麦藁帽子を掴む左手に、そっと触れてみる。
ゴツゴツとした、硬い皮膚に当たった。


「…なんだよ」
「なんでもない」
「いや、その手」
「嫌ならやめるけど」
「…嫌じゃねェけどよ」


緩い動きで、シャンクスは私の指に自分の指を絡めた。
全部の指を絡められたために、指を動かせなくなって、なんだか不機嫌。
ぐらぐらと揺らして、離れないか試してみても、離れようとしない。


「ねえ、離して」
「なんでだよ」
「…手、繋ぎたいんじゃなくて、触りたいだけなんだってば」
「そう言われてもなァ。触られてるだけっていうのも…、なんだか楽しくねェよなあ」


恋人繋ぎのまま悩まれても、私だって楽しくない。
がっしりと繋がれた指は離してくれそうにないし、ああもう本当にどうしよう。


「…暑いし」
「そう言うなよ。最初に触ってきたのはお前じゃねえか。俺はてっきり誘われてンのかと…」
「そ、そんなわけないでしょ!」


もう、とため息をついたとき、シャンクスは私の手を引っ張った。
ぐらり、と身体は揺れて、倒れないようにもう片方の手を床につけてなんとか支える。
と、思ったとき。
シャンクスが一瞬で起き上がって、私の肩を押した。
なんとか支えられていたはずの私の身体は、難なく倒れてしまった。


「え」
「…やっぱ、こうじゃねえと」


まさに押し倒された、状態。
にやりと笑ったシャンクスを見上げるけど、その後ろに太陽が見えて眩しい。


「眩しい」
「そうか?」
「太陽と赤い髪って、凄く目に優しくないと思うんだけど」


未だに繋がれたままの手は、もう離れないんじゃないかってくらいに自然に思えた。
それを一度ぎゅうと握り締めて、シャンクスの頬に手を伸ばした。
そのまま髪に指を差し入れて、撫でるようにシャンクスの頭の形をなぞる。


「お前、今日はやけに積極的だな」
「昼間から何を言ってるんだか」


両手は相変わらず塞がっている。
シャンクスの手が、肩から私の後頭部へと移動して、軽く持ち上げられた。


「キスとセックス、どっちが欲しいんだ?」
「…選択肢がおかしい」
「お、両方か?俺はそれでもいいんだが」
「違うわよ。…選ぶとしたらキスだけど」


そう言った瞬間に、シャンクスの唇がそっと私の唇と合わさった。
目を開いたまま、唇が、ただ、触れた。





ふとした瞬間にじゃれ合って、(その瞬間がただただ心地よい)




2011.10.28 三笠