誰もが振り返るような、可愛かったり綺麗だったり色気があったりする女の人はたくさん見てきた。誰も彼もがそんな女の子と付き合いたいと羨ましがるけど、そんな彼女らのなににそんなに惹かれるのかよくわからないでいた。もちろん、見かけはひとつの魅力ではあるけれど、俺にとってそれは大して重要ではないのだ。可愛いとか綺麗だとか思うことができないわけじゃない。素直に可愛いと思うこともたくさんあるけれど、それが恋に落ちる条件ではないってことだ。俺にとって大事なのはそういうことじゃなくて。でもそれに気づいたのはすごく最近で。それまではきっと、ちょっと好きかも程度で付き合ってて、本当に恋に落ちたことはなかったんだと思う。好きで好きでたまらないってこういうことだって知った。名前を呼ばれるだけで心臓が高鳴った。彼女の笑顔を見るだけで笑顔になれた。一度触れたらもっと触れたくなって、何度も何度も理性と戦った。傍から見たら滑稽だったと思う。今まで付き合ってきた彼女たちとは違って、特別可愛くも美人でもないし、色気だってあるとは言えない。それなのに、程よく焼けた健康的な肌が、少し荒れた手が、屈託なく笑う無邪気な顔が、誰よりも好きだって思えた。
せんぱい、と呼ぶと、彼女は振り返った。なあに、と心地よい声が耳に届く。何度も何度も言おうとして、何度も何度も言えずにいた言葉。告白するのが怖いと思うのは初めてだった。俺から好きになって付き合うことなんてなかったから。キスも肌を重ねるのも初めてではないのに、彼女とだったら気持ちいいだけじゃなくて、びっくりするほど幸せになれるんじゃないかって思った。その誘惑に負けたわけじゃないけど、俺はついに言ってしまえと思った。彼女を誰かにとられたくなかった。それが一番の理由だと思う。森山先輩と話す姿を見て、ひどく、ひどく心がざわついた。余裕なんてすっ飛んだ。彼女がいつまでもフリーである理由も根拠もないんだって気づいた。
呼びかけたまま黙っていた俺に向かって、首をかしげて、俺の名前を呼んだ。
黄瀬くん?
ああ、ああ、今すぐ抱きしめてしまいたい。そんな熱情を抱えながら、隠しながら、俺はいつもとはきっとぜんぜん違う、真剣な顔で、言葉で、彼女に伝える。
だいすき、っス。
一瞬呆けて、そして見る見るうちに林檎色に染まる顔。
俺は堪えられずにくすりと笑った。くつくつ笑う俺を見て、混乱したように慌てる先輩。そして同じ言葉を、今度はふざけたようにつぶやいた。すき、すき、だいすき。もっと甘ったるくて妖艶な言葉も言えたかもしれないけど、今はこの言葉が一番だって思った。
わたしも、すき。返ってきたその言葉を聞いて、彼女の体を思い切り抱きしめた。
2012.9.6 三笠
とある企画に参加しようとしてたけど、URLがわかんなくなっちゃったので普通にサイトに載せてみるね |