3


ありえへんありえへん、絶対ありえへん!
だって、こんな真面目そうな顔して、いきなり「抱いてくれ言われたら抱くか」って、どういう質問やねん!
ああ白石、俺とこの立場代わってくれや。こんな状況で「笑わせたもん勝ちや」なんて絶対言えへん。


「自分、なに言っとんのや…」
「ごめん、変なこと言ったね。忘れて」
「や、ちょー待ち。言ったんか?自分、それ千歳に言ったんか?」


そやったら、あかんで。そんなの、余計いろいろこじれるだけや。なんの解決にもならん。
そう言った。言い始めたらとまらんくなった。
途中でがきょとんとして、ふっと息を漏らした。真剣に大真面目に言ってやったから、の態度にちょっといらっとしたのは仕方ないことだと思う。誰のためにここまで言っとると思ってんのや。


「私は言ってないよ。千歳くんも言ってない。例え話だもん」
「は?そーなん?自分よーわからんわ」
「うん、そうだね」


思わず首をかしげた。
何を言いたいのかわからん。この学校の生徒はみんな一物持ってるっちゅーか、個性的な奴等が多い学校やけど、こいつも相当変だ。
コミュニケーションがとれない系の、変なやつや。


「忍足くん、私ね。千歳くんとずっと友達でいたいんだよ」
「友達?」
「うん、友達」


それはつまり、恋愛感情なんか全くあらへんし、これからも持つことはあらへんっていう意思表示だろうか。
よくわからん会話が続いて、俺の頭はパンク寸前だった。全部投げ出して思い切りテニスやりに行きたいわ。


「オトコとかオンナとか、そーいうの全部取り払って、ずっと仲良く居られたらって思うの。でも、そうはできないんじゃないかなって。異性なんだから、一緒にいたら意識するし、そういう空気になることもあるって、そういうこと、いろんな人にたくさん言われたの。
そんな話訊いたら、変なこといっぱい考えちゃって、嘘でも付き合ったことにすればいいんじゃないかなって。そうしたらみんな納得するし、ずっと一緒にいられるって、勘違いしちゃったの。でも、ずっと友達でいたいのに、そんなことしたらだめだよね。なんだか気まずくなっちゃって、つかず離れずを繰り返して。普通って、なんだっけ、って。一線置いて話すようになって、前ほど楽しく笑えなくなっちゃった」


ばかだよね、とは笑った。
笑えへん、と俺は思った。なんで笑えるん。自分、むちゃくちゃ悩んどるやん。
男と女が一緒にいたっておかしくないし彼氏彼女にならなきゃあかんわけやない。けど、周りがそれを許さないんや。みんな、付き合ってるんかって訊いてくる。ただ、友達でいたいだけなのに、それがおかしいみたいな空気がある。


「…堪忍なァ、なんかうまいこと言えへんかと思ったけど、無理やったわ。俺もさっき千歳のこと好きなんかって訊いてもーたしな」
「しょうがないよ。忍足くんは普通だし、悪いことは何もしてない」
「けど、傷ついたやろ。仕方ないって思っても、嫌なんやろ。だったら怒ってくれや。俺馬鹿やし、言われんとわからんねん」


は俺を見て、首を傾けて困ったような笑みを浮かべた。
千歳はがこんなに悩んでるのを知っているんだろうか。知ってて、一人で悩ませているんだろうか。


「千歳も、おんなじキモチなんか」
「わかんない。でも、「俺ら間違えちょったばい」って。友達に戻ろうって、話したことある」
「さよか…」


俺にはなんも口出しできん。2人の問題やし、下手に口出す問題やないって、思った。


「なァ、」
「ん?」
「俺からなんか言う問題やないし、むしろ言わんほうがいいと思っとる」

「けど、話くらいはいつだって聴くから。辛くなったら頼ってくれや。千歳はあんなんだし、言えないこともあるやろ?」

「…うん、ありがと」


ようやくがちゃんと笑った気がした。
思いがけず可愛いと思ったのは、本人には絶対いえない。



2011.3.4 三笠