同じ年に産まれた時からお隣さん。ずっと同じ学校で同じクラス同じ通学路。ここまで同じが続けば、自然と距離が近くなるもの。
忍足謙也と私は、自然とお互いの部屋を行き来するようになり、今も謙也の部屋でぐだぐだと話していた。
「隣のクラスの可愛い子、知ってる?」
「あんな…、俺はエスパーやないんだから、可愛い子って言われて分かるわけないやん。名前忘れたにしても、もうちょい具体的な特徴言えや」
2人ともバラバラの雑誌を読みながらの会話。
謙也はイグアナの飼い方、私は月刊プロテニスで、どちらも謙也所有のもの。
私はテニスをしたことはないけれど、謙也とその従兄弟の侑士の試合を昔から見ていたから、ルールくらいは分かる。けど、雑誌を見ていると、同じ人間なのかと思うような画像ばかりだ。こんな中、全国大会に出場する謙也は実は凄いんじゃないかとこっそり考えてみる。
「えー…、あー、まあいいや。多分謙也知らないと思う」
「なんやねん。相変わらず適当やな」
「その子が、謙也のこと好きなんだって」
さらっと言ったそんな台詞に、謙也はブハッと噴出した。
相変わらずいい反応。関西…、いや四天宝寺中のお笑い魂をしっかり謙也は受け継いでいる。
少し顔を赤らめて、目を白黒させてこちらを見てくる。
「なっ、なに言うんや、いきなり」
「や、いきなりじゃないんですよ。『謙也くん好きなんやけど付き合ってる子いるのかなぁ』ってよく聴かれる。『もしかして付き合ってるの』って聴かれることもある」
全部で何回くらいだったかな、と呟くと、謙也は雑誌を放り投げて少し前かがみに座りなおした。やはり女の子に好かれるのは嬉しいようで、でも気恥ずかしさもあるような、そんな微妙な表情が見えた。
「え…えー…?初耳や…。ほんまなん…?」
「ほんまほんま」
雑誌片手ではなくちゃんと話そうかと思って私も雑誌を置いた。そして謙也と同じように少し前かがみに座りなおす。
2人の間のテーブルには紅茶が二つ。謙也の家の紅茶はうちの紅茶よりよっぽど美味しい。けど、今はもう空っぽ。
少し喉が渇いたことと、お互いあまり話さない内容であることが相まって少し話しにくい気がする。
「そんで、なんて答えてるん?」
「謙也に一番近い人は白石くんだって答えてる」
「お、おおう…、別に構へんけど、なんや誤解生みそうやな」
私より誰より白石くんと一緒にいる時間が一番長いじゃん、と呟くと、そりゃ部活もクラスも一緒やからな、と返ってきた。そりゃあそうなりますよね。私は夕食後に時々謙也の部屋に押しかけるけど、それでも部活中ずっと一緒の白石くんよりは少ないのは当たり前だ。
「なんか、白石くんと一緒にいる謙也は楽しそうで好きだってみんな言ってるから、それはそれでいいんじゃない」
「そうなん?まぁ、いいけどな。いいんやけど」
もぞもぞと身体を揺らしながら、謙也はこちらに視線を寄越した。
「それで結局なんなん?」何故あえてこんな話題を持ち出したのかと思ったのか、そんな言葉を言い放つから、私はゆるく笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
「いやあ、テニスで活躍してるからか、ちょっとそういうこと訊かれるのが多くなりまして」
「ほう」
「幼馴染としては、こう、なんていうか…いやあの、別にね!いいんだよ!謙也がモテても!何度告白されてもリサーチ入っても、それはそれで全然問題ないんだけどね!」
「お、おう…?いや、そんないろいろ訊かれるん迷惑やったらスマンけど」
「迷惑じゃないし、正直そーいうの訊かれるくらい謙也に近いと思われてるならむしろうれしい」
勢いでぐちゃぐちゃ喋っていたら本音がぼろぼろ出てきて、あ、これやばいかも、と思った。うれしいなんて言うつもりなかった。そっと謙也の顔に視線を向けると、さっきよりも顔を赤らめてびっくりした顔をしていた。
「! そ、そーなん?」
「…そーだよ。てか、あの、そうじゃなくって」
そんなこと言いたいんじゃなくって。問題はそこじゃなくて。
言うつもりなんかなかったけど、今言ってしまえば楽になるだろうか。何年も温め続けていた想いはくすぶって、今にも溢れてしまいそうだ。
謙也は「なに言うんや」と言わんばかりにこちらの様子を伺っている。
テニスの練習で忙しい謙也とは殆ど外に出掛けないし、どうせ言うなら今も明日も同じだ。私は言ってしまえと気合を入れて息を吸った。
「わ、私も謙也のこと、そーいう意味で好きだってことですよ」
「………は?」
呟いた言葉は少し震えていて、ああ情けない恥ずかしい。謙也はさっきよりもずっと驚いたようで、目をぱちぱちさせて、こちらを見つめてきた。思わず唇をかんで睨み返すと、ようやく私の言った台詞を飲み込んだのか、顔を赤らめて視線をうろつかせた。
「誰かに取られるなら、さっさと告白して玉砕しようと思って」
「さ、さよか…」
「さよかって、別に断られんのは分かってたけど、せめてもうちょっと気の利いた台詞でも言えばいいのに」
照れ隠しで顔を背けながらそんなこと言うと、慌てたように謙也は身を乗り出して声を荒げた。顔は真っ赤。ちょっぴり汗もかいてるみたいだ。
「ちょ、ちょー待てや!なんでふられるとか思ってんねん!!」
「え」
「おま、し、知ってるやろ。俺が昔っからお前が好きやて」
今度は私が呆ける番だ。
思わず謙也を見つめると、真っ赤な顔で見つめ返してきた。
あ、だめだ、これ緊張する。目を離すタイミングが分からない。
「え、えええ…、し、知らないって!なんなのそれ!知ってるわけないじゃん!」
「幼稚園とき、いつか嫁さんにしてやるて言うたん、覚えてへんの!?」
「何年前の話だと思ってんの!?って、そーじゃなくて!い、今も好きなの!?」
「10年経っても変わらずお前しか見てへんわ!」
勝手に昔の話にすんなや、と謙也は言った。
うわあ、もしかして私、今凄い台詞を言われたんじゃないか。
昔とは呼び名もお互いの立場も変わったけれど、お互いの気持ちはずっと同じだった。それに気付いたら、なんだかぎゅっと心臓が締め付けられたような気がした。
「…じゃあ、これからは私の謙也になりましたって言っていいんだよね。私がもらったので諦めて他の男子見てねって」
「そりゃええけど、友達思いの言う台詞やないなァ」
笑みを浮かべながら、呆れたように謙也は言った。
そんな台詞を言いながらも、にやにやと幸せそうに笑っているんだから、謙也も結局のところ私と同じだ。
やさしいけど、やさしくない。
「いくら友達だって、謙也のことは譲れないよ」
「やったら、俺も手ェ出さんといてって言ってええんかな」
幼い頃と変わらないくしゃくしゃの笑みを浮かべている。
言っている内容と顔が合ってないよ、なんて言ったって意味は無い。
昔はもっと純粋で単純で、真っ直ぐで、でも今もいい部分はそのままに、人のことを考えられる人になった。ひまわり…いやそんなに偉大じゃない。菜の花みたいな奴だ。
「か、勝手にすれば、いいんじゃない、かな」
「ほな、勝手にさせてもらうな」
早速白石にメールするわ、なんて呟いて携帯をカチカチいじりだして。
明日白石くんに会うのがちょっと恥ずかしいなあなんて思ったけどそれでもいいやと思った。
友達思いの言う台詞じゃないな
2011.3.10 三笠
忍足謙也の誕生日を祝う会さんの企画に参加させていただきました!
3月17日が謙也さんの誕生日です。
以下、提出の際のお祝いメッセージです。
謙也さんお誕生日おめでとうございます!
ちょっぴりアホだけど優しい謙也さんが好きだよ!
後ろから抱き付いて顔をぐりぐり押し付けたり髪いじったりしたいです^^
これからも素敵に笑ってテニスしてる姿を応援してます。